クリムゾン レイヴ

人を殺したいと思ったことはありますか?
・・・・私はあります。
殺しても罪悪感を感じないほどに憎んだことはありますか?
・・・・私はあります。
憎しみの種なんて最初はほんの小さいもの。それがどんどん自分の中で育ってやがて手におえない獣になる。
人間の体が肉の塊に見えたこと・・。
私は、あります。

木野原涼子はその日、たまたまついていなかった。
朝は何故だか目覚ましがならなくて代返ができない講義に遅れたし、学食に行ったらいつも食べてる定食は自分の前の人間で売り切れた。図書館に行った後でサークルに行けば皆もうドライブに出かけた後で、そこで自分の友人とくっついた彼氏が「ごめん」と電話をかけてきた。
最悪。
人生最悪まではいかないかもしれないが、最悪。
塾の講師のバイトの帰り。愛車のハンドルを握りながら涼子はそう思った。同時に、もう、いいや。とも思う。ここまで悪かったらこれ以上のこともないだろう。
そして、その考えは見事に覆された。
マンション裏の駐車場に涼子が車を止めると、入り口から入ってくる車がある。暗い色のセダン。時間にして11時。もうかなり遅い時間で、周囲は当然の暗闇だと言うのに、スモールライトしかつけてはいなかった。その上、まるで何かを物色しているかのようにのろのろと動いている。
・・・なんだろう・・?
不思議に思いつつも車をロックしてマンションの方へと歩く。できるだけその車の方は意識しないようにしようとは思っても、限られた出入り口のためにどうしても側を通る事になる。早足にその車の側を通り過ぎようとしたその刹那、事は起こった、
ガチャッ!
「きゃあっ!ん・・んぐっ・・・んぐーー!んーー!」
唐突にドアが開いて力強い腕が伸びてきたかと思うと、涼子の腕をわしづかみにして車に引きずり込んだ。叫ぶ涼子の口を大きな手が塞ぎ、大急ぎでドアが閉められたかと思うと今度は車が急激に動き始めた。
「ん・・いや・・・っな・・なに・・なに!?」
パニックを起こして叫ぶ涼子が手を解いて声をようやく出す頃には、車は駐車場を離れてどこかへ走り出した後だった。車の中には4人の男。涼子を抱えていた男が怯える涼子を自分お隣に無理やり座らせるとその顔を近づけた。金髪のロン毛。耳にはいくつものピアス。多分かなり若い。
「思ったより可愛いじゃん。暗闇は顔がなかなか確認できねーからたまにブス掴んじまうんだけどな。」
「やっちまえばどれも一緒じゃんか。締まり具合の方が大事だろ。」
げらげらと笑うのは運転席の男。多分これが一番年上。茶色に染めた髪を無造作に散らしている。
「言えてんな。ねーちゃん、名前なんてーの?」
涼子の隣に座るもう一人の男が声をかけてくる。かなり細身のスキンヘッド。やっぱり耳にはピアス。
「あ・・あなたたち・・誰・・??」
持っていたバッグをしっかり抱え込んで震える涼子に男たちは下卑た笑みを返した。
「俺たち?ねーちゃんを美味しくいただくのさ。」
「いやああっ!」
助手席の男の台詞に涼子が悲鳴を上げた瞬間、車は近くの港に止まった。男たちがそれぞれにドアを開けて車から降り立つ。涼子も引きずり出されるように車から降ろされた。
「ねーちゃん、ゲームしようぜ。」
「げ・・ゲーム・・?」
にやにやと笑いながら涼子を見る男達に怯えて後ずさりしながら問い返す。どうせろくなゲームではないに決まっている。
「ねーちゃん逃げな。」
「・・・え?」
あっけにとられて4人の男を見る涼子ににやにやと言葉を続ける。
「おっかけっこしようや。俺達に捕まらずにこの港から出られたら勘弁してやるよ。」
「そんな・・・・。」
足には多少自信がある。高校時代にテニスで鍛えた足は伊達じゃない。だけど、男4人相手に逃げきれるかどうかと言われるとかなり疑問が残るところであった。
「ここでやられるか逃げるか・・。1分やるよ。」
金髪の男がタバコに火をつけながら言う。
「・・・。」
迷っている暇はない。涼子はくるりと踵を返すと勢いよく走り始めた。律儀に1分待つつもりか、後ろの男達が走り出す気配はない。
もしかしたら・・逃げ切れるかも・・。
淡い期待を抱きながら倉庫群を駆け抜ける。
・・・・見えた!
涼子の目に、港の出口を示す道路が見えてきた。幹線道路なので深夜にもかかわらず車はそれなりに走っている。
もう少し!
自分を奮い立たせ、スピードを上げようとしたそのとき、不意に目の前に男が現れた。
・・・!?
慌ててブレーキをかけて方向転換を図る。
・・後の出口は・・。
頭の中で必死に検索をしながら走る先にまた男の姿。
は・・早すぎる・・・。
まるで手の内を読み尽くされているかのような行動に涼子の背筋に冷汗が伝う。息を切らしながら再び方向転換し、別の方向に走り出す。
狩り。
まさにそれは、そう表現するに相応しかった。獲物に幾ばくかの余裕を与えながら確実に消耗させ、追い込んでいく。涼子が最終的に行き着いたのは倉庫に囲まれた行き止まり。身を隠せそうなところは何もない。大きなワゴン車が一台止まっているが、身を隠すには不十分であった。
・・・どうしよう・・・・。
袋小路から踵を返そうとする涼子の3方に男達の姿が映った。正面に二人、左右に一人ずつ。
「ゲームオーバーだな。」
にやっと笑いながら歩いてくる男に、頭を振りながら少しずつ後ずさっていく。
「い・・いや・・いや・・・。」
「まあ、諦めてさ、俺たちと楽しもうぜ。気持ちよくしてやっからさ。」
明らかに揶揄を含んだ楽しげな声。<
いや・・諦めたくない・・。
視線を左右にめぐらす。正面は二人。なら左右なら・・。涼子はとっさに左に向かって走る。手を伸ばそうとする男の脇をすり抜け、そのままトップスピードに乗って駆け出した。
・・・抜けた!
喜びに浸ったのもつかの間。不意に倉庫の間から金髪の男が現れた。
・・嘘!?
Uターンしようにも間に合わない。涼子は男に真正面からぶつかり、地面に転がされた。
「きゃあっ!」
拍子に太腿を擦り剥くが、その痛みを感じている暇はない。慌てて身を起こそうとする涼子の腕をスキンヘッドの男が掴み、涼子の目の前でにやりと笑う。
「ねーちゃん、惜しかったな。」
「い・・いやああっ!」
暴れて腕を振り解こうとするがびくともしない。悲鳴をあげる口をふさがれると、引きずられるように先ほどの袋小路へと連れて行かれた。
「んーーー!んぐ・・・ん・・・!」
いくら叫んでもくぐもった悲鳴が響くだけで。袋小路に止まっているワンボックスに歩み寄ると、迷いもなくその後部のスライドドアを開いた。
まさか・・最初からここにおびき寄せるつもりで・・・。
涼子の瞳が悔しさに涙に滲む。ワンボックスカーの中はすでにベッド状のシートアレンジになっていた。涼子がそのままシートに仰向けに引き倒されると男たちは四方からその肢体をいやらしく眺める。
「い・・や・・いや・・・。」
震える身を起こして首を振りながら後ずさろうとするが狭い車内のこと、すぐに背中が壁につく。
「残念だな、ねーちゃん。約束通り、いただくぜ。」
にやりと笑いながら茶髪の男が言ったのを皮切りに四方から手が伸びてきた。力の限り暴れるが、到底男達の力には叶わない。両手両足が押さえつけられ、口までもふさがれた。必死で手足に力を込める涼子の視界にちらりと光るものが映る。やがて、冷たい感触が頬にあたる。黒髪の、助手席にのっていた男がナイフ片手に口を開いた。
「無理やりってのも面白くていいんだけどさ。手間、かけさせんなよ。怪我したくないだろ?」
ナイフの冷たい感触に血の気が一気にひく。
「せっかく可愛い顔してんじゃん?俺たちもさあ、出来ればスプラッタはやりたくないわけよ。」
もう・・動けない・・・。
男達の手が戒めを解く。にもかかわらず涼子は手も足も動かせず、声すらも出すことができなかった。引き攣った顔で車の天井を見上げる。
「いい子じゃん。聞き分けのいい女は好きだぜ?」
それを誰が言ったのかすらもうわからない。頬から金属の感触が取り去られても、もう、涼子は動くことができなかった。
「じゃ・・パーティーと行きますか。」
男達の歓喜の声。涼子は、涙すら流せなかった。

ブラウスのボタンが外され、スカートが足から抜き去られていく。
ビリ・・ビリビリ・・・
「乱暴だなー」
「こっちの方が燃えるじゃん?」
げらげらと笑いながらストッキングは破り去られる。ブラウスがカーディガンごと腕から抜き取られた。後に残されたのは慎ましやかな胸が押し上げているベージュのブラと、ちょうどいい肉付きの臀部を包み込むおそろいのショーツのみ。性急な男たちはそれも引き千切るように取り去り、すぐに一糸纏わぬ裸体が車のルームランプの下、露になる。
「上玉じゃん・・。」
「ラッキー♪」
男達の歓喜の声に居たたまれなくなって顔を背けようとする。黒髪の男がおもむろに身を屈めてそんな涼子に口付けた。ねっとりと隅々まで侵し尽くすようなキス。舌は絡みついただけじゃ飽き足らずに根元も歯茎の裏も奥歯までも侵略しようとする。
「ん・・ぐ・・・。」<
息もつけないような口付けに涼子が身を捩らせると、唐突に乳首をつままれる。
「ん・・んうっ!」
視界がふさがれているので誰がやったかはわからない。乳首をこりこりと摘んだ後は容赦なく形がいい胸を揉みしだかれる。しっかりと閉じていた足もあっさりと割開かれた。茂みの奥の割れ目を指が容赦なく蹂躙していく。誰かが白い腹を舐めまわしている。意識は拒んでも、体に与えられる感覚にはどうしようもなく反応する。
「お・・濡れてきたべ?意外とねーちゃんやらしいのな。」
割れ目を弄っていたのであろう男の声があがる。襞に侵入し、かき回す男の指には、涼子が漏らした僅かな粘液がまとわりついていた。<
「なんだかんだいいながら好きなんじゃんなー。」
違う・・違う・・違う・・っ!!
心は必死で否定する。
そんなはずない・・犯されて感じるわけがない!
実際に感じているわけではなかった。涼子の心の中はいまだ凍りついたままで。ただ、恐怖で体が心の支配から離れたその瞬間に、体は涼子を守る本能のままに反応しているだけの話で。
「じゃ、早速いただくか。」
「順番どうする?」
「じゃんけんで勝ち抜けな。あそこ、と口の順番でいこうぜ。」
「尻、つかえねえかなあ?」
「お前、尻好きなー。俺にゃわかんね。」
「じゃあ俺、尻貰うわ。」
体の上で交わされる下世話な会話。それは、否が応でも涼子の運命を思い知らされるものでもあった。
お尻・・?まさか・・お尻に入れるの・・??
未知の領域。歯の根が噛み合わないほどがちがちと体が震える。
いや・・こんな連中に・・いや・・・
そう思ってもナイフの冷たさに縛られた体はびくとも動かない。やがてじゃんけんで順番を決めた男たちが涼子を引き起こすと、四つんばいにさせる。
「じゃ、いただきまーす。」
まるでランチでも食べるような気軽さで。茶髪の男が下から涼子の秘裂に欲望を押し込む。
「お、結構いい感じ。さすが好きもの、締まるぜ。」
その間に、後ろでスキンヘッドの男が涼子の菊花に蜜を塗りたくり、揉み解そうとしていた。前に回った金髪の男が涼子の顎を掴むと、閉じられないように頬をぐいと掴んでペニスを唇に押し付ける。
「ねーちゃん、噛んだらわかってんな?早くいかせたかったら舌使いな。」
「ん・・んぐぅ・・・。」
問答無用で奥まで押し込まれる青臭いペニスに吐き気を覚えながらもやはり恐ろしさに噛めずに咥え込む。舌などとても使える状況ではなかった。男たちがそれぞれ勝手に動き、涼子の体は波に揉まれるように揺れる。そして・・・。
「ん・・・んうううううっ!!」
アナルに熱さを感じたかと思うと、無理やりに押し入ってくるそれに尋常でない痛みを感じて限界まで見開かれた瞳から涙が零れた。
「後ろも結構具合いいぜ?すぐでちまいそう。」
「お前のがあたってなーんかやな感じだよなあ。」
下で男がぶつぶつ言うのなどもう、涼子の耳には入らなかった。
誰か・・誰か・・助けて・・。
この悪夢のような時が早く過ぎ去ること。それしか今の涼子の頭にはなかった。やがて、口の中で男が弾けた。その精液にむせる暇もなく次の男のペニスが押し込まれる。下腹部にも熱い迸りを感じて涼子は絶望感に襲われた。やはり男が抜け出すと同時にすぐに別の男が潜り込んでくる。
痛い・・・気持ち悪い・・・もう・・いや・・・。
男達の陵辱は、空が白み始めるまで続いた。

明け方、涼子は乱れた服に、顔に精液をこびりつかせ、太腿からはどろどろの白濁を垂れ流しにしながらバッグをかろうじて指に引っ掛けるような状態でふらふらと裸足で歩いているところをせりの帰りの漁業関係者に発見されることとなった。すぐに警察に通報され、婦警に付き添われて病院に行ったが、もはや、涼子は口を聞けないほどの精神状態に陥っていた。 警察の事情聴取に涼子は頑として口を開かなかった。否、開けなかった。
そして二月後、小さな産婦人科から青ざめた顔で人知れず出てくる涼子の姿があった・・・。
憎い・・・
白いコートを抱きしめるように涼子は大学の屋上に立っていた。
辛い・・・
冬の空気は冷たく涼子を包む。屋上ともなれば尚更に激しく。
ここから・・飛び降りれば楽になれる・・。
ぼろいフェンスに指をかける。腐食しきった金網は一押しすればそのまま涼子を地上へと連れて行ってくれそうだった。
心無い周囲の中傷。外にもろくに出られなくなってしまった心。堕胎の痛みを味わった体。男とはもう、話せない。顔も合わせられない。
こんな私、死んでしまえ・・・・。
ガシャン・・・・<
金網をそっと揺らす。一押し。それは勇気ではない。ただの逃亡。だけど、今の自分には唯一の楽園に思えた。
憎い・・憎い・・憎い・・・・・。
「そんなに憎いか?」
ふと、背後で聞こえた声にはっと後ろを振り返る。
「・・・!?」
今まで全く気配がしなかったそこに、長身の男が立っていた。髪と瞳は闇の色。黒いロングコートに、黒いスラックス、黒い靴。全身黒ずくめのその男は、静かに、一歩一歩涼子に歩み寄ってくる。
「こ・・・。」
来ないで。そう言い掛けて声が詰まる。不思議なことに、男が近づいてくるに連れ、恐怖心が薄れていくのを感じた。それどころか、奇妙な親しみすら感じる。
「憎いか・・?」
魅入られたように男の闇色の瞳を見つめる。こくり、と涼子はうなずいた。
「殺してやりたいほど憎いか?」
そうよ・・・私はあいつらを殺してやりたい・・。私をあんな目に合わせたあいつらを・・。
迷いもなく涼子は頷いた。
「では、力が欲しくはないか?」
力・・?欲しい・・。手に入れられるのならそんな力が・・・。
有り余る疑問を涼子が考えることはなかった。全ての事象をまるで、自分が望んだことであるかのように受け止める。
「欲しい・・。欲しいわ・・・力・・・。」
涼子の瞳がどんよりと曇っていく。もはやそこに、意志の力は感じられなくなっていた。
男の薄い唇が笑みの形に歪む。ロングコートの前を開き、おもむろに口を開いた。
「では、来い。」
それは、凄まじい強制力を持った意思の言葉だった。何者をも抗うことを許さぬ力。涼子は、ふらふらと男のもとへと歩んだ。
ふぁさ・・・・
男のコートが涼子を包み込んだ。同時に、かき消すようにその姿は冬の風に溶けていった・・。

次へ

このページのトップへ