クリムゾン レイヴ22

守りたい
そう思うことが力になる
傷つけたくない
だからがんばれる
そう
それが全ての力になる

ぎり・・・
ぽた・・ぽた・・・・
「は・・ぁう・・いや・・いやぁ・・・。」
まんじりともせずに漣は見ていた。己の唇を噛み千切り、血が滴り落ちるのも気づけないほどに目を血走らせて見ていた。
目の前で遙が犯されている。弱弱しく泣きながら、刹に突き上げられて。刹の手の中で乳房は捏ね上げられ、乳首は痛々しいほどに硬くそそり立っている。耳を塞ぎたくなるほどの淫猥な水音が響き、罅割れた神経を逆なでした。
そして漣の隣では操が瘴気の触手に陵辱されて望まぬ嬌声を搾り取られていた。その乳房が、太腿が、秘裂が。触手の遠慮ない陵辱にその形を変えている。膣も肛門も犯されているのをわざとのように大股を開かせて見せ付けている。だが、操にそれを払いのけるすべはない。触手が穴にもぐりこみ、クリトリスを撫でるたびに背を仰け反らせて嬌声を上げるだけだった。
だが、漣が見ているのはそれではなかった。
何か・・何かあるはずなんだ・・。
刹が悦に浸り、漣の拘束を緩めている今が勝機のはずだった。
そうでなければ意味がないのだ。
遙という巫女を得たことも。その巫女を傷つけたことも。
全て救われなければ意味がないのだ。
さらに漣は刹に対して違和感を覚えていた。何かに縛められている。本人はそれを意識してはいないだろうし、恐らく漣が闇に与していたならわからないほどの何かがその感覚に引っかかった。
何か・・何かきっかけがあるはずだ・・。その正体さえつかめれば・・・。
「ふ・・ふふ・・悔しいかい?葉山の。悔しいだろう?今、君の巫女は僕のものだ。くくくく・・っはははははははは!」
刹の哄笑が響き渡る。
そのとき、見えた。
「・・・!?」
刹の胸に光る聖なる気の名残。それはどこまでも気高く、重厚で、温かみがあり、そして・・懐かしかった。
あれは・・じいさんの・・・・!?
次の瞬間、漣は叫んでいた。
「『弾けろぉっ!!!』」
言霊が光のオーラとなり、真っ直ぐに刹の胸に突き刺さる楔へと飛ぶ。そしてその言霊は見事に勝機を生み出した。
ボフッ
「ぐ・・・?」
ボタボタッ
そう、それは、泰山が命がけで遺した聖気の楔であった。漣の言霊に呼応し、それは刹の体内で爆発的に膨張し、そして弾けた。刹の身体そのものには影響は及ぼせずとも同じ性質の言霊の名残にであればアクセスできる。
刹の胸元が裂け、大量の血液を吐くと胸を押さえて蹲った。
その瞬間、あらゆる縛めが緩んだ。
「遙!!来い!操!」
自分も走り出しながら二人に声をかける。弾かれたように操が触手の海から抜け出して転がり、言霊の戒めを解く。
遙も悶える刹を押しのけて抜け出すと、よろけるようにしながら漣のもとに走ろうとした。
「あうっ・・!?」
「遙!?」
よろけるようにして遙が転ぶ。その足には血塗れの刹の手が絡みついていた。
「君・・だけは・・離すわけにはいかないんだ・・。君を・・得て・・・僕は・・最強の・・言司と・・なる・・・。『殺れ』!!」
絶叫にも似た言霊が迸り、周囲の世界を形作っていた瘴気が凄まじい勢いで漣と操を絡めとろうとその手を伸ばす。
「くそ!『滅せよ!』」
「漣!ここはあたしが!あなたは遙を!!『清めよ』!!」
言霊を飛ばし漣の前を切り開くと操は微笑んだ。
「あたしって、いい女でしょ?『我、言司の元に在りてその全ての根源を解放す!!』」
操の言霊の意味を知り、一瞬漣の顔が歪む。操の身体は細かい光の粒子となり、四散していった。その全ての粒子はうねり、襲いかかろうとする瘴気に取り付き、それらを清め、祓おうとする。それは、姿無き熾烈な戦いだった。
「ほんと・・・いい女だよ・・。」
苦い口調で呟いて操の変化の全ては見ないままに漣は走り出した。
今、全てを終わらせないといけない。
己がどうなっても、いや、己と刹とで今まで流された血を、そして傷みを与えた傷を贖わなければならない。
だから・・・。
「『滅!!』」
漣から光が迸り、数条の矢となって刹に襲い掛かる。そのとき知った。もはや言霊を使うのに、形だけの言葉は必要ではないと。が、刹もまた言霊使いであった。
「『護』!!きかぬ!!」
遙を前に抱えながらふわりと舞い、漣の放った言霊を弾き返す。
「く・・っ!遙を『離せよ!!』」
意思を伴うだけでいまや全ては言霊となる。刹の腕がきしみ、ぐらりとその身体が傾ぐ。その間に一息に距離を詰めた漣の右足が後方から刹の延髄目掛けて唸りを上げた。
「甘いわ!『躍』!!」
漣の足がかすめる瞬間、刹の身体がその場から消え、漣の後方に移動する。その手から闇の波動が巻き起こった。
「『裂』!!」
「うあうっ!」
力ある言葉に導かれて走った闇の刃が見事に漣の左肩を切り裂き、血を噴出させる。
「漣!!」
遙が刹の腕の中で叫んだ。
どうしよう・・あたし・・どうしたら・・・。
漣はすぐさま体勢を立て直し、遙のほうを見る余裕もなく二人を引き剥がそうと躍起になっていた。言霊が飛び、あわせて使われる体術に漣の存在を間近に感じる。
弱まった刹の力に、強まりゆく漣の力。二人の力の差はもはや五分五分のように思えた。だとしたら、今邪魔をしているのは自分以外の何者でもない。
だが、遙の中でも変化が起こっていた。闇との交わりを通じて、言霊の本質、そして、それが運命だあったことを知ったのだ。漣を傷つけるためだけにこうして刹の腕の中にいるのではない。自分がここにいるのは意味がある。
単なる邪魔者にはなりたくない・・!!ここまで来た意味がないもの・・!
必死で思い、考える遙の身体からゆらりと仄かに白い気が立ち上る。凄まじい戦いを繰り広げる刹はそのことにはまったく気づかない。そのとき、遙の意識に引っかかる何かが在った。
これは・・・?
刹の身体のあちらこちらに広がった聖なる気の楔の欠片たち。刹の体内で一度爆発を起こしたそれらは、散弾銃の欠片のようにあちらこちらに散らばって残っていた。それらが遙の気に反応して淡く存在を告げていた。
もしかして・・。
操が自分を媒体に力を増幅させていたことを思い出す。今の漣の力を増幅してそれぞれの楔に叩き込めたら・・・!?
方法は一つしかない。漣に滅びの言霊を自分に飛ばしてもらうのだ。それを受け止め、増幅して叩き込む。
失敗したら・・・。
思いついた方法に我ながら恐怖を覚えた。だが、やるしかない。やるしかないのだ。
遙の心は決まった。
「漣!!あたしを殺して!!」
「何!?」
唐突な遙の叫びに思わず叫んだ漣の右肩を刹の言霊の刃が掠めていく。
「馬鹿!なに言ってやがんだ!!」
「くくく・・・恐怖の余り気が触れたか?まあ、おかしくなってくれたほうが僕としては後がやりやすくていいけどね?」
おかしげな刹の声を頭上に聞きながら遙は真剣な眼差しで漣を見つめた。
「『お願い!!信じて!!』」
叫んだだけの言葉が言霊になりうるほどの感情。
「な・・馬鹿な・・・。」
思わず生唾を飲んで刹の言霊を弾き返しながら漣は遙を見つめた。その瞳に一点の曇りもない。次いで刹の身体のあちこちに光るものを見つけて漣は遙の意図を悟った。
まさか・・。
「漣!!」
・・賭けるしかない。
遙の叫びに漣の眉根が辛そうにぎゅっと寄った。
「遙!!行くぞ!!」
「はははははっ!!巫女と言司で殺しあうのかい?こりゃ傑作だなあ!!」
余波を食らっては面倒だと遙の体を離した刹に目もくれず、遙はまっすぐに漣を見た。
今、逃げても意味がない。滅ぼさなきゃいけないのだから。
謝罪は述べない。信じているから。刹の哄笑にぐっと一瞥くれただけで漣は叫んだ。
「『滅』!!!」
漣の体から立ち上る気が最大級の高まりを見せた。それは光り輝ける滝の如き奔流となり、遙へ向かって一直線に轟音を立てて向かう。その莫大な気の塊を、遙の華奢な体が受け止めた。
「遙!!!」
普通の人間なら一瞬で存在そのものを消してしまうほどの威力だ。思わず漣は叫んで駆け出しかける。が、その動きが止まった。
「『滅ぼせぇええええええっっ』!!!!!」
それは、確かに遙の声だった。いや、声というには余りにも重い衝撃に空間の全てが動きを止める。そして。
ヒュッ・・・・バコォォォォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!
漣が放った気の固まりは、その数倍もの衝撃と振動と、そして熱をも伴って完全に固まって動けなくなってしまった刹へと向かう。
「ば・・・馬鹿な・・っ!!!??『護』・・・う・・うぎゃぁあああああああっ!!!」
放とうとした言霊はまるで紙切れのように消え去り、彗星の如き光の奔流がその断末魔ごと刹を飲み込んでいく。歪みきった顔は恐怖に彩られ、まるでスローモーションでも見ているかのように徐々に、徐々にその存在が削られ、滅ぼされていくのが見えた。
やがて・・・。
永劫続くかのように思えた光の嵐が過ぎ去った後、そこは葉山本家の道場へと姿を変えていた。昼下がりの柔らかい光が差し込む中、残り香のように闇が霧散していく。そして、一つの矮小な魂が残された。それは、力を全て失いながらも貪欲に生を求め、ふらふらとどこかへと飛び立とうとしていた。
凝縮された闇はどこまでも、醜く、そして卑しい。だが、生き残って機を待つことこそが現在できるただ一つの手段のように思えた。
「待てよ。誰が逃がすっつった?」
がしっと鷲掴みにされてその魂は怯え、竦んだ。己を握ったものはらんらんと輝く瞳に凄まじい怒気を孕んで睨みつけている。
「す・・すまなかった。も・・もう、僕に大それた事をする力はないよ。見逃してくれないか?本当に悪いことをしたと思ってる。これからはひっそりと目立たないところで穏便に暮らしていくよ。」
「ほう?それを俺に信じろって?」
「信じるのは君たちの専売特許じゃないか?それにほら、人間赦しも必要だよ。憎悪に捕らわれちゃ前の僕たちみたいになっちゃうし。」
口の減らない魂に漣の瞳は険しさを増した。その唇が冷たい笑みを刻む。
「俺たちは神様じゃねえ。信じるのも、許すのも得意じゃねえんだ。特にお前らみたいな腐ったやつらはな。」
ひくり、と魂のない唇が引きつったような気がした。
「だ・・だけどさ。憎悪なんていうのは悲しいものなんだよ?誰しもが抱くものでそれに苦しめられる人たちがどれだけ多いか。僕達がやってたのはいわば善行なんだってば!!」
「それで人が死ななきゃ・・誰も不幸にならなきゃほんとに善行だったかもな。」
あきれたような漣の物言いにさらに魂は焦った。今、自分は何もできない矮小な存在なのだから。許して逃がしてもらうことが全てなのだから。
「だ・・だけどさ・・!!」
「うるせー。死ね。」
ぐちゃ・・・・・
最後は声も立てず、握りつぶされてそれは終わりを迎えた。その小さな魂は、漣の手の中で、最後、何を思ったのだろうか。
「くそ・・ったれ・・!遙ぁ!!操ぉ!!」
魂の残り滓を気合だけで燃やし尽くし、二人の名を呼びながら振り返る。道場の板の上に、傷だらけの遙が倒れているのが漣の目に飛び込んできた。だが、操の気配はどこにもない。
「遙!!」
慌てて駆け寄り、抱き起こす。
力の余波か、裂傷が体のあちこちに入って血が流れているものの、細いながら息があった。そのことにほっとしながら癒しの言霊を念だけで込めていく
「遙・・。頼むから・・目を開けてくれ・・。」
どれくらいの時が経ったろうか。うっすらと、その黒い瞳が姿を覗かせ、数度瞬きを繰り返した。
「遙!!」
感極まって抱きしめる漣を傷だらけの腕が抱き返す。
「終わったの・・・?」
遙の言葉に頷いて漣は顔をあげた。
「ああ・・お前のおかげでな。ありがとう・・。」
「操・・さんは・・?」
遙の問いかけに漣の瞳が僅かに伏せられる。
「操は・・・。」
正直どうなったのかはわからなかった。だが、言霊としての己を解放し、本質を剥き出しにしたあの状態であの凄まじい量の力の余波を受けたとなれば・・・。
「生きてるわ。」
凛とした声で遙が言うとその身を起こした。
「遙・・。」
「言霊は人の意思を根源とするもの。あたしたちが無事でいると思えば、操さんはいるの。」
それが、闇と交わったときに遙が学んだものだった。憎悪も、愛情ももとは全て人の手によるもの。人は憎悪と共にそれを晴らす手段を望み、そして闇が生まれ、愛と共にそれを育む手段を求め、それが光となる。全て、人の意思なのだ。
力強く頷いて漣は微笑んだ。
「ああ、そうだな。操!!いるんだろ!?出てこい!」
「操さん!!!いるんでしょ?」
二人の呼びかけに、散らばっていた光が徐々に集まり、不安定ながらもその姿を変えていく。かなりの時間をかけ、光の渦が消え去った後には憔悴しきった操が蹲るように座っていた。
「操!!」
「操さん!」
駆け寄ろうにも大して体が動かない遙を支えて漣は操のもとに駆け寄った。その姿はかなり消耗しているようで、まだ存在感がかなり希薄だった。
「大丈夫か?」
心配げな漣にくすりと微笑んで操が答えた。
「大丈夫よ。二人もあたしが『いる』って信じてくれたから。」
「操さん・・・。」
感極まって抱きつく遙を抱きしめ返して操はふわりと微笑んだ。
「漣。これで終わりじゃないのよ?」
その操に力強く頷く。
「わかってるさ。これから、だよな。」
人が憎悪を抱える限り、この攻防は続く。そう、戦いが終わることは決してないのだ。
人の気配が唐突に増えだした。あちこちの戦いも一旦の終結を見たらしい。
「漣!」
自分を見て駆け寄ってくる母に笑みを向け、父を見てにやりと笑った。
やってやるぜ!!
父の笑みに、漣は親指をぐっと立てて応えたのだった。

「ん・・ん・・ぁ・・ああっ。」
「へへ・・味をしめたんだろ?正直に言えよ。気持ちいいってな。」
「あん・・いい・・いいのぉ・・・っ!!」
「う・・お・・俺も持っていかれちまう・・うおおおっ!!」
男は白濁を吐き出し、女の上に覆い被さる。女の瞳が光った。
「ふふ・・・満足した・・?」
息切れしながら男が頷いた。もう4度も放出したのだ。いい加減出せそうにはない。
「あ・・ああ・・。」
女の唇が引きあがる。
「じゃあ・・死んで・・。」
「何・・っ!?」
女の手が男の首にかかり、凄まじい勢いで締め上げる。
う・・うう・・・死ぬ・・首が・・・折れ・・・
バタバタと暴れ、女を殴ろうが蹴ろうがその手はびくともしない。男の意識の端でミシ・・と骨がきしむ音が聞こえたそのとき。
「『お放しなさい。』」
女性の柔らかい声が響いて女の手が男の首から外れた。
「げ・・げほ・・っが・・!!」
慌てて咳き込みながら逃げようとする男を同じ声が引きとめる。
「『動くな。』」
女は血走った瞳で声のするほうを睨んだ。
「何で邪魔するのよ!!こいつは私の生活を無茶苦茶にしたのよ!!??死んで当然なんだから!!」
女の声に導かれるようにその存在は姿をあらわた。かなり若いように見える。背中までの緩やかなパーマをかけた茶髪にすっきりとした小顔。二重の目は大きく、鼻と唇はすっきりと納まっている。その少女はふわりと微笑んだ。
「そうかもしれない。でも、だからってあなたが罪に手を染めることもないわ?」
「知った風な口きかないでよ!!何様!?」
少女はその問いには答えず、女を支えるように立ち上がらせると、逃げようとしていまだ身動きままならない男のほうへと導いていった。そして、女の手を男の股間へと導く。
「殺さなくても・・致命傷は与えられるでしょう?生き地獄の方がすっきり殺してやるよりもいいんだから。」
くすりと微笑む少女に一瞬女は呆気に取られたような顔をする。
「この人の、男を殺しちゃいなさいな。死よりも辛い罰を・・。」
「死よりも・・辛い・・・。」
その言葉をうっとりと復唱しながら男のペニスに伸びた手が徐々に力を込めていく。
「ひ・・ひぃ・・や・・止めてくれ・・・」
男のかすれるような悲鳴が響いて間もなく。
グチュ・・ブチィ・・ッ!
「ウッギャアアアアアアアアッ!」
重さのなくなった股間を押さえて悶絶する男を見下ろし、少女は微笑んだ。手にしたハンカチで女の手を綺麗に清めてやる。
「さ・・行きなさい。この結界から出たら・・『全て忘れる』・・。」
少女の言葉に導かれるまま女はふらふらと裸のままその場を立ち去っていく。その後姿を僅かな笑みと共に見送る少女の後ろに気配が生じた。
「女ってけっこー残酷だよなあ?」
「あら、この場合は当たり前の制裁よ。そっちはすんだの?」
振り返っておおこわ、と肩をすくめる少年に微笑みかける。すると少年はまあねと頷いた。
「まあ、言妖自体はそう強くはなかったからな。今回はあっちの恨みの方が強そうだったけどさ。まあ、無事に終わったことだし、俺たちもとっとと引き上げようぜ。」
悶絶する男にちらりと憐憫の眼差しを向けると少年は歩き出した。
「あん、待ってよぉ。ところで写真部のモデルは?」
慌てて少年を追いかけてその腕に腕を絡める。その少女にふっと笑みを向け、少年はわざとらしいしかめっ面を作って見せた。
「誰がやるかよ、ばぁか。」
その少年の耳元で姿無き気配が囁いた。
「あら、やればいいのに。」
「うっせーーー!!俺はやらないんだーーー!!」
宵闇が支配する町の中。少年の叫びが滑稽に響き渡った。
それは、平和な日常の風景。
これからもずっと繰り返される・・。

前へ

このページのトップへ