れっといっとびぃ9

 「まあ、どうぞ。」
アッサムが俺をつれてきたのは俺たちが取っていた宿に程近い商人ギルドの二階だった。
取引なんかの密談にも使えるように防音が施してあるらしく、部屋に入って扉を閉めたとたんに外の騒音はなに一つ聞こえなくなった。
逆に、俺がここで殺されたとしてもすぐにはわからないと言うことになる。
まあ、商人ギルドでそんなことをするやつはいないだろうが。
念のためにバッソ(バスタードソード)を傍に立てかけたまま俺は腰をおろした。
アッサムは俺の向かい側の椅子にのんびりと腰をおろす。相変わらず人のよさそうな笑みを浮かべているのが密かにむかついてはいるがそれはまあ、言うまい。
「お茶でもいかがです?このギルドが出すお茶はなかなかいい味なんですよ?」
「いいからとっとと肝心の話をしようぜ。」
そのいらつきがどこか口調に表れていたことは否めない。アッサムは落ち着いた笑みを浮かべて自分の顎をするっと撫でた。
「まあ、落ち着いてくださいよ。焦りは禁物です。特に盗賊ギルド相手ではね。」
アッサムの唇にわずかに浮かんだ薄い氷のような笑みに俺はほんのわずか眼差しを細くした。
「・・・まあ、確かに。あんたの言うとおりだ。だけどそうのんびりとしてられる状況でもなさそうなんでね。できるだけ手短に簡潔に願いたい。」
「それはもちろん。」
アッサムはうなずきながらのんびりと言うと、自分の膝に組んだ腕を置き、俺の方へと身を乗り出してきた。つられるように俺もわずかに身を乗り出す。
・・・この部屋じゃあ無意味なことなんだろうが。
「では早速本題へと移りましょうか。なに、簡単な取引です。」
そう言いながらもアッサムの目がほんのわずか鋭さを帯びた。俺は黙って次の言葉を待つ。
「ラリサさんは私が助けましょう。その代わり、アッシュ・オブ・デスと邪教神官、ラルクェス・ホーンを始末していただきたいのです。」
俺は見た。
二人の名を告げるときのアッサムの瞳に激しい憎悪が宿るのを。
「・・ラルクェスってのはどんなやつだ?」
「北東の邪教神殿に出入りしている神官です。ただこの人はおとなしく邪神に祈っているだけの人ではなくてですね・・。」
一見にこやかなアッサムに俺は身をわずかに起こした。考え込むように顎に手を当て、じっとアッサムを見る。
「なるほど・・。死を齎す灰と同業者か。するとかなり手ごわそうじゃねえか?」
「ええ。死を齎す灰と同等の実力があるといわれています。」
まるっきり人事のように静かな笑みを浮かべるアッサムを見ながら俺は肩をすくめた。
これは単なる人殺しの依頼じゃない。
いろいろな裏事情が複雑に絡み合ったところへ俺が利用されているに過ぎないと見た。
だからこそ疑問を口にした。
「なぜ自分でやらない?」
「私はただの薬売りですし。」
答えもなくじっと見る俺の目は言外に『嘘は通じない』ことをアッサムに告げていた。
その俺をみてアッサムは目を糸のように細めながら隙のない口調で言った。
「ここはユスティの勢力が強い町です。この町で商売をしようと思ったらうかつに血なまぐさいことには手を出せないんですよ。」
「・・・なるほどな。」
すべて納得したわけじゃない。
もちろんすべて信じたわけでもない。
「ずいぶん分の悪い取引じゃねえか?」
椅子の背にもたれて言う俺にアッサムはふふ・・と小さく笑った。
「そうでもありませんよ?あなたとラリサさんの噂なら私は聞いたことがありますしね。ブラックライトニングにシルフィウィザード。」
「ふーん・・?なるほどな・・・。」
身内の始末を外部に手伝わせてつけさせようって腹らしい。
ラリサはこの町で「レイア」と名乗っていない。
つまり、ラリサの二つ名を知っていると言うことはそれなりの組織にいるということになる。
俺の表情を読み取ったかアッサムが満足げに頷いた。
「では、お願いしてよろしいですね?ああ、そうそう。もちろんこちらからも手伝いはよこしますよ?」
まだなんも答えてねーっつーに・・・。
勝手に話を進めるアッサムを睨むが蛙の面に何とかだ。
「とりあえずあなたは宿でラリサさんの帰りを待っていてください。お手伝いさんと一緒に帰ってきてもらうように手配しますから。」
どの道受けたほうがいいのはわかっている。俺は大きくため息をつくと勢いよくその場から立ち上がった。
「手の上で踊るのは好きじゃねえが・・。明日の朝までにラリサが戻ってこなかったらお前も無事じゃすまねえぞ。」
・・我ながら悪役じみたせりふだ。
が、アッサムはにこやかに頷くと立ち上がって俺のために扉を開いた。
「今夜夜半までにはお返ししますよ。楽しみに待っててください。」
「・・・。」
気に食わない。
そう思いながらも俺は扉を出た。
悔しいことに盗賊ギルドの中と来ると余りにも特殊だからだ。
頼んだぜ。は、言わない。
それが俺の精一杯の意地だった。

ぐちゅ・・ずちゅ・・・ずにゅう・・・ちゅう・・れるれる・・・
「あ・・あん・・ぁふ・・・ああ・・・。」
ぎし・・みし・・・
ぶちゅ・・・にゅる・・・
「ひ・・ぁ・・・あうん・・・・ぁ・・。」
滴り落ちる汗がまたひとつ石の床にしみを作った。
頭上で縛められた手はいいかげんしびれて感覚がなくなってきているというのに体は相変わらず敏感だ。これは多分さっき飲まされた薬のせいだろうと思う。
「あ・・ああ・・ん・・やぁ・・・。」
左足は足首をロープでつられて高く上げさせられている。床についているのはかろうじて爪先立ちの右足だけ。もちろん、あとは全裸。手も足も、途中まではかなり痛かったのを覚えている。だけど、今はもう何も感じない。
あたしの股間にはピウスが顔をうずめていた。さっきから魔法で怪しくくねる木の棒をあたしの秘裂に突っ込んで奥までかき回しながらあたしのクリトリスを尖らせた舌の先で舐めまわしたり愛液ごとちゅうちゅうと吸ったりしていた。
どうやらピウスは当分あたしで楽しむつもりらしかった。
おかげさまですでにあたしの体はピウスの唾液と自分の汗と愛液とにまみれてガビガビだったりする。
・・いいかげん洗わせて欲しいもんだ・・。
とは言え今のあたしにそんなことをしみじみ考えている余裕は余りない。
「あ・・だ・・め・・だめぇ・・・・。」
あたしの太腿を伝い落ちる愛液をピウスの舌がきれいに舐めとって木の棒をさらに奥深くに突っ込んできた。一番奥の弱いところを突かれてあたしの腰が快感に震える。
「いくか?けけけ・・いけ・・いけえっ。」
下卑た笑い声と共にピウスの舌があたしの敏感な突起を舐り、一際激しく吸い上げた。
「あ・・あああっ・・・あああああっ!!」
震える手足。手足だけじゃなくてきっと体中が痺れてる。
同時に、あたしの股間を何か生暖かいものがすごい勢いで伝っていくのを感じた。
「ひひひ・・余りの気持ちよさにもらしたか。感度といいまんこの味といいたまらんわい・・。」
「あ・・は・・・ん・・・。」
ギシギシ・・ミシ・・・
音を上げてロープが緩められていく。
拘束された手足を解かれてもあたしはまだぐったりとしたままだった。
「さて・・次はどうかわいがってやろうか?」
下卑た薄笑いを浮かべながらピウスがあたしの体を撫で回していたそのとき、どこかで扉が開く音がした。
「ん・・?ゴルドか?」
あたしがいるのはいわゆる地下牢だったりする。石壁に石床の部屋に頑丈な木の扉。扉には小さな覗き窓がついているだけで、食事を運んでくるのもピウスだから実質あたしはここに着てからピウスとゴルドの二人にしか会ってはいなかった。
振り返ったピウスと、ぼんやりと扉のほうに目を向けたあたしの前に立っていたのは黒いローブに身を包んだ黒髪の男。
「こ・・・これはラルクェス殿。」
ピウスが慌ててあたしから離れると、脱ぎ捨てていた上着を慌しくはおった。
ラルクェスと呼ばれた男はピウスを一瞥し、ついであたしに視線を向けると表情も変えずに口を開いた。
「ふん。最近女をなかなか差し出さないと思ったらこんなところで囲っていたのか。」
「い・・いええ。この女はギルドに仕事を探しに来た女で。売春宿に出すのに具合を見てたんで・・。」
まあ、嘘は言ってないかもしれない。
しどろもどろに言い訳するピウスをふんと鼻で笑うとラルクェスはあたしのもとへと近づいてきた。
「ゴルドはどうした?」
「はあ。例の依頼を受けた冒険者の動向を見に行ってます。なんでも男と女の二人組みらしいんですが受けたのは昨日の筈なのにまだまったく動きがないとかで・・。」
「最近は依頼を受けるもの自体が減ってはきてるからな。」
「アッシュ・オブ・デスの名前はやはり脅威なようで・・。」
ピウスに鷹揚に頷いてラルクェスはあたしの傍に屈み込むとあたしの顎をとって顔を上げさせた。まだなんとなくぼんやりしてるので特に抵抗はしない。
・・・なんとなくやな予感はするんだけど。
「処女ではないようだな?」
・・そんなの14歳でおぢさんに差し上げちゃったわよーだ。
「ええ、ですがかなりいい具合ですぜ。あそこの絞まり具合と言い感度と言い・・。」
よだれでもたらしそうに言うピウスを一瞥するとラルクェスはあたしの顔を覗き込み、唐突にあたしの乳房をぎゅっと握り締めた。
「あ・・・あぅん!」
思わず声を上げたあたしを見てにやりと笑うとラルクェスはピウスを見た。
「私も試してやろう。自ら開拓することも必要だからな。構わないだろう?」
言うが早いかローブを脱ぎ捨てるラルクェスにピウスがおもちゃを横取りされた子供のような顔をして仕方なく頷いている。
子分のおもちゃはガキ大将に取られる運命なのねえ。
人事のようにぼんやりそのやり取りを見ていたあたしの乳房をやわやわと揉み、乳首を摘み上げる。
その瞬間、あたしの体に電流のような刺激が走りぬけた。
「あ・・ああん・・ふあっ・・。」
なんと言うことだろう。それだけの刺激で腰が抜けそうになるほどイイ。
妖しげな薬を飲まされているにしてもこの男が普通ではないことははっきりとわかった。
「な・・んで・・ああん・・。」
ピウスの唾液と汗にまみれるあたしの乳房を捏ねまわし、腹を撫でてもうぐちゃぐちゃのあそこに指を差し入れながらラルクェスは満足そうに笑った。
「ほう・・この女、依代体質と見える。」
ヨリシロ・・・?
聞きなれない言葉に何のことだったか思い出そうとするのに、快楽に意識が集中できず上手くいかない。
・・一体なんだっけ・・。
「あん・・ふぁ・・や・・やあん・・・っ!」
あたしの秘裂を弄っていた指をきゅっとクリトリスを抓り上げ、二本の指を押し込んできたのだ。
ぐちゅ・・ぐちゅう・・
「あ・・ああ・・」
薬の効果もあって腰にずんずんと響くほどの快感が背骨を突き抜けていく。
声にならない声を上げるあたしを見ながらラルクェスはにやりと笑った。
「う・・嘘・・・!?あ・・あああっ!!」
なんてことだろう。
あたしは中をほんの少しぐりっとされただけでいってしまったのだ。
その瞬間、異様なほどの脱力感があたしを襲う。そう、まるで大きな魔法でも使ったあとのような。
まさかこの男・・。
「・・?」
「ほう・・おまけに魔力容量もかなりあるらしい。お前、魔法は使えるのか?」
「す・・こし・・。」
問い掛ける男にあたしはぼんやりとそう答えていた。
実際、レオと会って魔法を使う機会が多くなったものの、あたしの本業は暗殺者だからだ。魔法はメインじゃない。
まさかこの男、あたしの魔力を少し抜くことであたしの魔力総量を量ったとでも言うのだろうか。
「ますます気に入った。この女ならあるいは受け入れられるかもしれんな。」
どこかわくわくしたような顔で言うラルクェスにピウスが慌てる。
「い・・いえ、ギルドに直接来た女を差し出しては怪しまれます。ここは例の冒険者の女を・・。」
「私がこの女を買うのなら問題はないだろう?売春宿に出す前に欲しくなってどうしても・・と言えばいい。」
「ま・・まあ・・そうなんですが・・。」
哀れなピウスはだめだとも言えずにその場にへたり込んでしまった。
それはいいとしてもこの男、一体誰なんだろう?格好からしたら邪教神官っぽいけどどうもそれだけじゃあなさそうである。
「しかしですね・・。ゴルドにも一応聞いておきませんと・・。」
まだ何か言っているピウスを無視してラルクェスはズボンに手をかけた。
「しかし今日は私も楽しませてもらうとするか。」
「ひ・・!?」
「・・な・・!?」
ピウスが腰を抜かしてあとずさろうともがいている。
あたしも驚いて悲鳴が喉の奥に張り付いたままと言うていたらく。
あろうことか、はちきれそうなズボンの下から現れたのはうねうねと蠢く数本のグロテスクな触手たち。
「ちょ・・やだっ!?あ・・ああうっ!」
逃げようとしてもさっきまでつるされていた手足はまだ満足に動かない。あっという間にしゅるしゅると伸びた触手があたしの手足に絡み付いて動きを封じられてしまう。
「そう怖がることはない。これはこれで一度味わえば病み付きになるほど気持ちがいいらしいからな。」
ヤミツキニハナリタクナイデス。
「やだ・・や・・あん・・はぁっ・・ああん・・。」
ずりゅっ・・にゅるっ!
まとわりつく触手があたしの乳房に絡み付いて乳首にまるで吸盤のように吸い付く。その吸盤の中がまるで揉まれるようにうねっているのがわかってあたしはその凄まじい刺激に一気に力が抜けてしまった。
「あ・・ああっ!んあ・・・あああうっ!」
ずちゅうっ!
さらに腰に触手が巻きついたかと思うと一際太い触手があたしの秘裂に荒々しく突進してきた。
「や・・あぐ・・う・・・ああん・・・。」
「くくく・・いいだろう・・?もっとよくしてやろう。」
ねちっこいラルクェスの声が耳に飛び込んできたかと思うとお尻の辺りに何かねちょねちょと当たる感覚がある。
「え・・まさか・・ぁん・・やん・・・っ!!ひぎ・・ああうっ!!」
ぐちゅ・・・ずにゅにゅにゅうううっ!!
「あ・・あく・・・。」
前で暴れる触手とまるで寄り添うように本来出すだけの器官に少し細めの触手が進入したかと思うと痛みを感じるほどの奥地までもぐりこんで暴れだす。
「い・・いや・・うぐ・・ぅうぐ・・・。」
前と後ろの穴で暴れまわる触手に酸素を取り込もうとパクパクする口にも触手が伸びてきた。閉じようとする唇を容赦なく割り開いて何本もの触手があたしの口の中に入ってきて暴れまわる。
胸に絡みつく触手はあたしの乳房をくびりだすように絞り上げ、乳首を吸盤のようなもので吸い上げたりちゅぽんと離したりを繰り返している。
その吸盤にも似たものはあたしのクリトリスにも伸びていて、敏感なその突起のフードを器用に向き上げたかと思うと容赦なく吸い付いてくる。
まさに、狂いそうなほどの快感があたしを襲っていた。
やばい・・息ができない・・。
ぼんやりする頭の端であたしはかすかに思い出していた。
そう言えば・・あの兄妹の兄のほうもこんな触手もってたな・・。
やっぱりつながってるのかしら・・。
ほんのわずか働きかけた思考もすぐに襲い掛かる快楽の波に浚われてしまう。
グチュ・・グニュ・・ニュル・・・ニュ・・・
「んぶぅ・・ん・・うぐん・・・む・・むむぅ・・。」
奥の奥まで突き入れられた触手があたしの襞の弱い部分を容赦なく抉っていく。
それは徐々に勢いを増し、辺りに白く濁った愛液が飛び散っていく。
朦朧とした意識の中、あたしの五感は快楽しか感じられなくなっていた。
本来忌むべき触手たちがあたしを快楽の海へと誘う渡し守のようにすら見えてくる。
それはまるで麻薬のごとく深い快楽だった。
「あん・・あ・・だめ・・だめえぇえええっ!」
何度目かもうすでにわからない絶頂に達するとあたしのありとあらゆるところを犯していた触手が震えた。
ぴゅっ・・ぴゅくっ・・どぴゅぴゅっ
熱い雨があたしの上に降り注ぐ。
それは白くあたしを染め上げ、あたしを更なる高みへと押し上げていった。
その瞬間、アッシュブロンドの髪が意識の片隅をよぎった。
「あ・・れ・・・?」
あたしの意識があったのはここまでだった。

ぱちゃ・・ぴちゃ・・・
ぼんやりと浮上しかける感覚の中で、あたしは水音を聞いたような気がしてほんの少し目を開けた。
まだ、意識ははっきりとはしない。
「ねえ、起きなさいよ。こんなとこでのんびり風呂に入ってる場合じゃないのよ?」
・・・うるさいなあ・・。せっかくあったまってるんだからほっといてよ・・。
あ・・でもほんとにあったかくていい気持ち・・。
ぱちゃ・・
「ねえったらぁ。とっとと洗ったらここからトンずらしなきゃいけないんだからぁ。早く起きなってばぁ。」
うるさい。あたしは今あったかくていい気分なんだから。
そう、あったかいお風呂・・あったかい・・あったか・・あれ・・。何でお風呂・・?
「意外と寝起きが悪いのねえ?お嬢ちゃん、起きなったら。」
「うっさい。お嬢ちゃんじゃ・・。」
ぱちゃん!
「きゃあ!?」
「目、さめた?」
はっと気が付くとあたしはいつのまにかバスタブの中にいた。
ぼんやりとこの前のことを思い出そうとするけど思い出せない。想像するに、精液まみれになった体を綺麗にしてるってとこだろうと思う。
でも、あれ?どうやって入ったんだろ?
「お嬢ちゃん?もしかしてまだ寝てる?」
「へ?」
ぼんやりと声のほうを見るとバスタブの傍に女の人がかがみ込んでいた。
どうやらあたしの体を洗ってくれてたらしい。
「あ・・どーもぉ・・。」
ボケっとしたまま頭を下げると勢いよくその顔を浴槽に突っ込まれた。
「ぶ・・・ぶわぁっ!?なぁにすんのよ!」
「目、さめた?」
食って掛かるあたしを見てその女の人はにっこりと色気のある笑みを浮かべた。
・・・あれ、待てよ?この人どこかで見たこと・・・・
「ああっ!イスターシャ!?」
そう。思いっきり指差すあたしの手を下げて立ち上がるその女性は冒険者ギルドでレオにちょっかいをかけていたイスターシャその人だった。
「ご名答。わかったらさっさと上がってここから出るのよ。」
「え・・?出る?どゆこと?なんであなたがここに?」
はっきり言ってちんぷんかんぷんである。
何か気を失う前に聞いたような気もするけどこのぼんやりした頭でそれを思い出すのは骨だ。ぽかんとバスタブから出たあたしに投げられたバスタオルを取り、慌てて体を拭いていく。
そのあたしの目の前に、あたしの服、鎧、そして荷物がドンドンと投げられていく。
「あの・・まったく話が見えてこないんだけど・・?」
「話はあと。とにかく急いでっ!」
急かされるように身支度を整えたあたしを見るや、イスターシャは浴室と思しきその部屋の壁の一角を外し、隠し通路へとあたしを導いた。
盗賊ギルドは万が一に備えていくつもの隠し通路を備えている。もちろん、それを余すところなく網羅している人間は少ないが、イスターシャはどうやらその数少ない人間の一人のようだった。
入り組んだ通路を右へ左へ曲がり、ようやく外に出ると、そこは冒険者ギルドの裏手だった。
外は暗闇。一体どれだけ留守にしていたのか見当もつかない。
レオ、心配してるだろうか。
一瞬頭を掠めた相棒の顔にあたしは思わず苦笑を浮かべた。
心配なんかしているわけがない。お互い、自分のことは自分でやるんだと決めてあるもんね。
「じゃ、行くわよ。」
「行くってどこに?」
間の抜けた声で聞き返したあたしにイスターシャはにっとつやめいた笑みを浮かべた。
「あなたの彼のところへ、よ。」

宿の部屋に入ると、レオが傍にバスタードを置いてまんじりともせずにベッドに腰掛けていた。
あたしを見てほっとした表情を浮かべた次の瞬間、あたしの後から入ってきたイスターシャを見てその顔がわずかに固まった。
「・・あ・・。」
「ハイ。」
どこかばつの悪そうなレオに比べてイスターシャはあくまでも軽い口調でひらっと手を振っている。
・・わけありか?
とりあえずレオが座っているのとは別のベッドにぽふっと腰掛けてあたしは口を開いた。
「とりあえず事情、説明してくんない?わけもわからず出てきちゃったんだけど。」
尋ねるあたしにイスターシャはごく自然にレオの隣に腰掛けた。
・・なんか微妙に引っかかるけどそれはここでは言うまい。
「まあ、話せばそれなりに長くなるけど構わないかしら?」
「あたしは構わないわ。全貌がわからないことには動きようがないもんね。」
努めて軽くあたしが言うとイスターシャはきわめて簡単に「事情」とやらを説明してくれた。
すなわち、
「アッサムに頼まれたからあなたを助けたのよ。」
「はぁ?アッサム?」
きょとんと尋ね返すあたしにレオがどこか苦々しげに言った。
「アッサムも盗賊ギルドに一枚噛んでるらしい。どうやら俺たちは内輪もめを解決するのに一役買う羽目になっちまったらしいぜ。」
「内輪もめって・・そんなことしてる暇ないんじゃないの?あたし達はあっちの依頼もあるってのに・・!」
「その依頼の件も一気に解決するかもよ?」
「へ・・・?」
その後の話を要約するとこういうことらしい。
イスターシャとアッサムは盗賊ギルドの前の長、つまり、今の長側の人間で、ギルド内で起こりつつあるクーデターをいち早く察知し、その全容を調べようとしている。ピウスたちが裏切り者で邪教神殿と関わっていることまではわかったんだけど、もう一人大物と関わっているはずなのにどうしてもその人物が浮かび上がってこない。というわけで、「冒険に成功しそうな冒険者」・・つまり、アッシュ・オブ・デスと渡り合えそうな冒険者と組むことで邪教神殿まで行って実際に荷担しているもう一人の大物が誰かを掴みたい。そこでたまたま鴨になりそうな「冒険に成功しそうな冒険者」を見つけたからレオに取引を持ちかけた・・とこういうことらしい。
・・・いや、あたしは捕まってるなんて自覚はなかったんだけどね・・?
「しかし・・そうならそうと言ってくれりゃよかったのによ・・。」
憮然とした顔でぶつぶつと言うレオにイスターシャがくすりと笑う。
「だって急にそんな話もちかけても乗ってくれるとは思えなかったんですもの。」
・・・なにやらいい雰囲気じゃないか?
「そりゃそうだけどさ。じゃああれか。俺に『組め』ってやたらと言ってたのはそういうことかよ。」
どこか心持ち残念そうなレオにイスターシャがしなだれかかる。なぜか一瞬あたしをちらりと見たような気がするけど。
「それだけじゃないわよ?あたし、あなたが気に入ったもの。」
・・・・・そこでなぜあたしを見るんだ、レオ。
「そりゃどうも。だがそうなると俺たちにとっては寄り道になるんでね。あんま望ましくねえ。」
「ふふ・・そんなつれないこと言わないで・・。」
「とりあえずっ!!!」
「あら、お嬢ちゃん怖い顔。」
・・・言っておくけどこのあまあまな雰囲気に堪えられないとかやたらレオの体を撫でまわしてるイスターシャが気に入らないとかそんなことじゃないからね。
単に疲れてるだけっ!!なんだから。
「明日の早朝行動を起こしましょ?とりあえず今日は寝るっ!」
「寝ていいわよ?あたしはレオとこれからのことについて相談するから。」
・・・その余裕がむかつく。
「隣でこそこそやられたんじゃおちおち寝ても・・っ」
「わりいが俺も寝る。疲れた。夜明け前に起こしてくれ。」
あたしの声を遮ってそう言うが早いか、レオはそのままこてんとベッドに倒れてしまった。
「・・・あら・・?ちょっとぉ、レオ。ねえ・・・って・・・もう寝てる・・。」
・・確かに、レオのその驚異的な寝つきのよさは始めはあたしも驚いた。うん。
「ま、そんなわけらしいからあたしも夜明け前に起こしてね。よろしく。」
さ、寝よ寝よ。
「え?ちょっと待ってよ、あたしは?あたしはどこで寝るのよ?」
「知らない。あ、ちなみに荷物ちょろまかそうとしたら防犯ブザーがなるからよろしくぅ。」
「そ・・そんなことしないわよぉ。ってちょっと!こらっ!あたしの部屋くらい確保しなさいよぉ。」
zzzzzzzzz・・・・・・・・・・

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