ご主人様と私
文:彩音
画:がそんみほ様
まずい……やばい……。
裏門から屋敷の裏口までの長い道のりを走りながら、あたしは比喩ではなく冷や汗をかいていた。
いつもより長引いたホームルームのせいで帰りのバスを乗り過ごし、次のバスを待つ間も惜しんで走って帰路を急ぐも、当然、バスより速いなんて事はない。
体育の授業ですら出さないスピードであたしは屋敷の裏口を猛然と抜けると、山盛りのシーツを抱えたメイド仲間の木戸さんの目の前をマッハのスピードで駆け抜けた。
「ただいま! それから、ごめんなさい!」
「きゃあっ!?」
もう、先に謝ってしまっておく。
案の定、廊下を曲がったところで危うくあたしが轢きかけた木戸さんが、転んでシーツの下敷きになった姿が目の端に映ったような気がしたけど気にしてはいられない。
あたしはそのまま角の部屋に猛然と駆け込み、鍵をかける暇も惜しんで毟り取るように制服を脱いだ。
別にストリップの趣味があるわけじゃない。時間が惜しいのだ。こうなると一分一秒も無駄には出来ない。
早くしないと……。
脱いだ制服を掛けている暇はない。そんなのは後回しである。
手早く掛けておいたたんすの中のこの家でのあたしの制服……つまり、メイド服を自分の体を突っ込むようにして身につけると鏡の前に立った。
服よーし、エプロンよーし。
あ、靴下に染み。これは急いで履き替える。
室内用の靴よーし。ヘッドドレスよーし。
ボタンよーし。
おけ、ばっちり。
時間は惜しいがこれも怠るわけにはいかないのだ。
鏡の中の自分のチェックを一通り終えるとあたしは再び猛然と部屋を駆け出した。
途中、メイド頭の中野江さんに見咎められて慌てて早歩きに変えるけど誰もいなくなればこっちのもの。
階段を一段飛ばしに駆け上がり、東の角のドアの前であたしはようやく立ち止まった。急いで深呼吸をし、
髪の乱れを整えてからゆっくりとそのドアをノックした。