櫻〜蒼月抄〜(前編)

 男の腕の中で白い裸身が踊っていた。
「あん・・は・・ぁあ・・・あふ・・・。」
ほのかに上気した肌はその名の通り桜色に染まっていた。男はどこまでも白いその肌に時折口付けて、桜の花弁が如き痕を残していく。
「櫻・・・櫻・・いいよ・・櫻・・。」
うわ言のように繰り返しながらその体を貪るように貫いていく。その瞳はどんよりと曇り、顔は病人がごとく青ざめていた。

望月裕也(もちづきゆうや)。21歳。職業、大学生。これといって何の取り得もなく、中肉中背の普通にもてない君だった。その日までは。
茹だるような夏の夜。コンビニのバイトの帰り道。自分の住んでいるぼろアパートの前に少女が立っているのに気づいて一瞬立ち止まる。時間は深夜。女の子が一人でうろついていていい時間ではない。
誰かの彼女かな・・・。
そう思うものの、ここの住人にそんな気が利いたものがいそうな人物は自分を含め思い当たらなかった。どちらにせよ、自分が気にすることじゃないな。思い直して裕也はアパートに向けて歩を進めた。近づいてみるとかなりの美少女だ。余りじろじろ見ると失礼だろうと極力注目しないようにしながら自分の部屋への階段を上がろうと足をかけた。声は、思わぬところからかけられた。
「あの・・・。」
・・・?
振り返ると、美少女が自分を見ていた。周囲を見回すが、他に誰もいそうにない。
「・・・俺?」
自分を指差して尋ねると、美少女はこくりと頷いた。間近で見るとアパートの薄暗い明かりの中ですら相手がかなり美しい造作をしていることがわかる。尻まで届こうかというほどまっすぐな黒い艶髪。大き目の瞳は黒目がちでくっきりとした二重瞼だ。小さく整った桜色の唇。すっきりとした鼻筋。清楚な白いワンピースに身を包んだその姿は清らかなくせにどこか妖しげで、その上危ういほどに儚げだった。
「えーと・・・何か用・・ですか?」
戸惑いがちに声をかけると、少女は頷いて涼やかな、それでいてどこか甘さを含んだ声で裕也に語りかけた。
「あなたのところに・・・置いてほしいんです・・。」
「えええっ!?」
思わず素っ頓狂な声を上げて、裕也は慌てて自分の口を抑えると周囲を見回した。誰かがいる様子はない。とりあえず深呼吸を一つして少女に向き直る。
「・・人違いじゃないかな?俺、君のこと知らないよ?」
少女はじっと裕也を見詰めると、口元に指を当てながら俯いた。
「人違いじゃないんです・・。私・・あなたの傍にいたくて・・・。」
新手のストーカーか?
一瞬思わないではなかったが、それほどもてる男じゃないという自覚はある。それに、こんな美少女とお近づきになる機会もなかったはずだ。
「ごめん・・。俺、身に覚えがないのに君を置くことなんてできないよ。」
至極当然な、常識的な返事をしたはずだった。目の前の少女が笑みの一つも零したなら、「からかいやがって」と笑って納得できるような状況。なのに・・・・。
「私のこと・・嫌いですか・・?」
そういうと目の前の美少女はさめざめと泣き出してしまった。裕也は慌てた。記憶に間違いがなければ、小学校のときに好きだった女の子をいじめて泣かしてしまったとき以来、女の子を泣かしたことはない。慣れない状況におろおろとしながら頭を掻いた。
「いや・・好きとか嫌いとかじゃなくて・・・俺は君のこと知らないし・・。」
涙を浮べた瞳が裕也をまっすぐに射抜いた。
「じゃあ、今から知ってください。お願い・・・。」
再びさめざめと泣き出してしまった少女におろおろとして裕也は結局少女を部屋に上げることにしてしまったのだった。

6畳一間のぼろアパート。小さなテーブルに小さなベッド。たんすを置いたらぎちぎちの狭い部屋。こんなぼろい部屋でも、前の住人(自分の大学の先輩だが)が置いていったエアコンがあるだけまだましだった。もっとも、そのエアコンも相当古く、息切れしそうな唸り声は上げていたが。
少女は櫻と名乗った。年のころは15、6だろうか。もしかしたらもっと幼いのかも知れない。だが、落ち着いて目の前に正座していると日本人形のような清冽さと冷静さを感じる。見た目の年以上に。
「ごめん・・よくわからないんだけど・・櫻さん・・はどうして俺のところに・・?」
どうしても解せなかった。どうしてこんな美少女が自分の所に身を寄せたいといっているのか。コンビニの客かとも思ったが、こんな上玉なら忘れようがないはずだし。
「ごめんなさい・・お名前も知らないのに・・。」
少女は恥ずかしげに俯いて言った。
「あなたのことが・・好きなんです・・・。」
「・・・は・・?」
なんとも間の抜けた声だと自分でも思った。だが、記憶に間違いがなければ、生まれてこの方実らない告白をしたことはあっても、告白をされた経験はなかった。当然、そんなことだから彼女がいたこともない。自分がもてないタイプだというのは重々承知していた。さえない顔にぼさぼさの頭。たいした趣味もなく、頭がいいわけでも、運動ができるわけでもない。最も女に縁遠いタイプ。
「いや・・ごめん・・・。えーと・・・会った事・・ある?」
実に失礼な質問かもしれない。だが、そう思っていてさえ聞かずにはいられなかった。会ってるとしたら忘れてる俺はどんな馬鹿野郎だと。
「覚えてらっしゃらないかもしれないんですけど・・・実は・・一度だけ・・・。」
いつだろう?
必死に考えてみる。だが、どうやっても思い出せない。
「ごめん・・・いつ・・かな・・?」
ますます情けない思いになりながらも頭を掻いて尋ねる。
「もう・・随分前なんですけど・・・。」

 誰の上にも例外なく訪れる春。いつものようにバイトからの帰り道、裕也はいつも通りかかる公園にふと目を向けた。深夜ということで人影はなかったが、花見の後だろう、そこは惨憺たる有様だった。
「あーあー・・・・ひでぇ・・。」
呟くと裕也はとりあえず目に付くごみを拾ってごみ箱に放り投げた。全部を片付けるのなんて無理だが、大きなものだけでも片付ければ少しは違うだろう。弁当箱や空き缶をどんどん拾っていくうちに裕也は一本の桜の木に目を留める。
「こりゃ・・ひでぇや・・。」
テントでも張ったのだろうか。根元に楔が打ちっ放しになっている。その内の1本は見事な桜の根をまともに貫いていた。
「ここから腐っちまったら大変だよなあ・・。」
ほどなく降り始めた雨の中、裕也は渾身の力をこめてその楔を引き抜いたのだった。

「見られてたのなんて・・気づかなかったよ・・。」
年甲斐もなく恥ずかしげに顔を染めて裕也は口篭もった。確かに誰もいないと思ったのに。
「お手伝いできなくてごめんなさい・・。でも・・それからずっとあなたが気になって・・。この間見かけたのでここまで後をつけてきちゃったんです・・。」
「そっか・・・そういうことかぁ・・・。」
人の眼を気にしてやったことでないだけになんだか余計気恥ずかしい。頭をぽりぽりと掻きながら裕也は櫻をちらりと見た。
「でも俺・・そんなたいした人間じゃないし・・。君のことよく知らないし・・。」
体のいい逃げ台詞のように自分でも思われた。こんな美少女が告白してるんだ。一も二もなく付き合っちまえ・・そう思わなくはない。だが、どこかでかっこつけたいのもまた事実。櫻はにっこりと微笑んで言った。
「これから、知ってください。それではいけませんか?」
だめだ・・・。
裕也はこのとき、完全にノックアウトされた。とりあえず場を取り繕うように立ち上がる。
「そういえば・・こんな時間だし、家の人は?心配してるよ、きっと。送っていくから・・。」
心配してるよ、どころの話じゃなかった。時間にして夜中の3時。普通、若い女の子が出歩いていい時間じゃない。
「あんな時間に一人で歩いてたら危ないよ。俺、学生で暇だしさ。今夏休みだし。昼とかでもいいからさ。」
「私も夏休みです。友人のところに数日泊り込むって言ってきましたから。」
そう言って少女は爽やかに微笑んだものだった。
「でも・・。」
さらに言い募る裕也に少女は同じく立ち上がって涼しげな、しかしながら熱を孕んだ眼差しで男を見つめた。
「好きになって・・欲しいんです・・・。」
これ以上少女を制限する言葉を、残念ながらというべきか、裕也は知らなかった。
「え・・と・・じゃあ・・・。とりあえず・・・風呂、入ってくるよ・・・。」
なんて言っていいか迷った挙句出た言葉がこれだった。
うあ・・・俺・・馬鹿じゃん?
なんだかそういうことを示唆させるようで一人で慌てながらわたわたと冷汗をかく。
「えーと・・俺、バイトから帰ったばかりだからさ。ちょっとシャワー浴びてくるから。ベッドで寝てていいよ。俺、床に寝るし。」
早口に言い繕うように櫻に告げると、裕也は浴室のドアを開けた。脱衣所なんてしゃれたものはない。ドアの陰に隠れるようにして服を脱ぎ、洗濯機に放り込むとばたんと乱暴にドアを閉めた。
や・・やべ・・・。
何を期待しているというのだろう。股間のものが痛いほどにそそり立っていた。
初めて会って・・いきなりそんなこと考えんなよな・・俺も・・。
がっついているようで情けない。そんなことを考えながら温めの湯をシャワーから出す。ふと、少女の芳しい匂いを思い出した。まさに名前のとおり、桜の花のように控えめでいい香り。
「やべ・・。」
それだけで白濁が出そうになって焦る。
いっそのこと抜いとくか・・。
そのほうが危険なことを考えなくてすみそうだと一物に手を添えたそのとき、背後でがちゃりとドアが開く音がした。
「・・・・?どうぁっ!」
妙な悲鳴をあげて後ずさるとシャワーの湯をまともに頭からかぶることになる。頭から滴る水の向こうに見えたのは、白い素肌を惜しげもなく晒しながらも、見た目の割にかなり豊満な胸や、股間を手で恥ずかしげに隠して佇む櫻の裸身だった。
「な・・ぅえ・・!?」
「一緒に・・入ろうと思って・・。」
「い・・いや・・その・・狭いし・・っ。」
そういう問題じゃないだろう・・。
そう思いつつも他に冷静な言葉が出てこない。
「洗ってあげたいんです。」
慌てふためく裕也をよそに、櫻はついと中に入るとさっさとドアを閉めてしまう。ほっそりとした首筋・・浮き出した鎖骨・・その細身な身体からは想像もつかないほど豊かな胸・・細く折れてしまいそうなほどにくびれたウエスト・・適度に肉付きよく張り出したヒップにその下のむちっとした太腿・・細く華奢な足・・。まるで、よくできた彫刻を見ているようでさえあった。どこか現実から遠い夢を見ているような気分に捕らわれながらも裕也は痛いほどに勃起した己の息子を何とか両手で隠す。
「自分で・・洗えるから・・。」
まるで呟きのように力なく漏れた声に自分でも説得力のなさを感じていた。こんな上玉を目の前にぶら下げられてはっきり断れる男がいたら見てみたい、とさえ思う。そんな裕也の葛藤を知ってかしらずか櫻は頭からお湯をかぶったままの裕也を自分のところへ引き寄せると、ボディーシャンプーを手に出して首筋から洗い始めた。その手つきはあくまで柔らかで、優しい。白い手はどこかひんやりとしながら優しく裕也の身体を弄っていく。首から胸元を洗い、腹を洗って息子を隠していた手を取って泡を擦り付ける。不思議と、抵抗する気は失せていた。丹念に指先まで現れると今度は背中を向けさせられる。柔らかい感触が背中を一通り撫でたかと思うと、ぴたっと明らかに手とは違う柔らかさを持ったものが背中に張り付いた。
「ぅあ・・。」
まさか・・と思う間もなく。その感触はそのままに、後ろから泡だらけの手が前に回ると先走りを滴らせてぬるぬるしているそれをそのしなやかな指で洗い始めた。
や・・やべ・・・。
一瞬の焦りに僅かにくぐもったような悲鳴。
ぴゅっ・・・ぴゅぴゅ・・っ
「・・・あ・・・・。」
一瞬の沈黙がその場を支配した。壁に散る前に白濁はシャワーが洗い流し、少女の手にまとわりついたはずのそれは泡と区別がつかない。それなのに、つーんと匂いだけが妙に浴室に広がった。
「ご・・ごめん・・。」
恥ずかしさに目の前が真っ赤になるのを感じながら裕也はポツリと口に出した。もっと恥ずかしいことに、一度いったはずのそれはいったことなど忘れたようにまだ力強く立っている。
「女の子に触られるの初めてで・・その・・・。」
なんと言っていいかわからず、口篭もる裕也の目の前にぴょこ、と後ろから顔を出した櫻の涼やかな笑顔があった。
「感じてくださったんですか?」
妙に嬉しげなその口調に裕也は素直に頷いていた。その唇に柔らかいものが押し当てられる。
「・・・ん・・・。」
我に返ると、鼻の先数ミリで少女がはにかむように微笑んでいた。
「はしたないって・・・思いますか・・?」
もう限界だった。華奢な少女の身体を泡だらけの身体で力いっぱい抱きしめると、食らいつくようにその唇に口付けた。可憐な唇は、少し唇をあけて吸っただけで全て食い尽くせそうだった。その柔らかさを存分に味わった後は自然に舌が伸びる。少女はなされるがままだった。歯列を割り、滅茶苦茶に口内を長い舌が蹂躙しても、うっとりと目を閉じて裕也の背中に縋る。その手にさらに興奮して、豊かな胸を右手が探り当てると力を込めて揉みしだく。手加減など知らない拙い愛撫に僅かに櫻の眉が寄せられるものの、抵抗などする気配はない。少女はまさに全身を裕也に委ねていた。
「ん・・ふぅ・・・。」
鼻から少し苦しげな吐息が漏れる頃になって裕也がようやく櫻の唇を開放した。豊満な胸は裕也の手の中で形を変えるように散々捏ね回された後で、その桜色の乳首はつんと慎ましやかにとがっていた。
「・・ごめん・・・その・・・。」
「謝らないで・・。思うとおりにしてください・・。好きなように・・。」
衝動的に櫻を求めた自分を恥じて静かに胸から手を離そうとしたその手を櫻の手が押し留める。黒い瞳がじっと裕也の瞳を覗き込む。まるで夜空の色だ・・・。ぼんやり裕也は思った。まだ櫻の腰を抱いていた手がいつの間にか少女の薄い茂みの奥へと導かれる。茂みの奥から透けて見えそうな割れ目に指が導かれると、そこはすでにしっとりと湿り気を帯びていた。
「熱い・・・。」
思わず漏らした声に少女が恥ずかしげに裕也を見上げる。
「裕也さんに触ってもらったから・・こんなになってしまいました・・。」
切なげな少女の瞳が裕也を見上げる。もぐりこませた指を動かして初めて触れるそこを探ろうとすると切なげな声が漏れた。
「・・ぁん・・」
「あ、ごめ・・。」
痛くしたかと引こうとする指を押し留められる。少女は静かに首を振って裕也の首筋に軽く唇を押し当てた。
「裕也さんのものにして・・。」
しっとりと静かに響くそれは、薄布を剥ぐように裕也の理性を奪っていった。弄る指で快楽の洞穴を探り当てると一気にそこに指を沈める。
「ぁん・・ひぁ・・っ!」
少女が甘い吐息を漏らし切なげに眉を寄せて背中をそらしても、もう裕也は止まらなかった。じゅぶじゅぶと音を立てて指を出入りさせながら櫻を壁に押し付ける。シャワーの水がまともに裕也を打ち、泡を洗い流していくのを好都合とばかりに乳房に唇を寄せた。初めて間近で見る女性の乳房。吸い寄せられるようにつんととがった乳首を唇にはさむとちゅうちゅうと赤子のように吸いたてた。
「んあ・・・あ・・ふ・・・いい・・。」
耳に心地よく喘ぎが染み入る。
気持ちいい・・?ならもっと・・。
本やビデオの知識を総動員させて膣に押し込んだ指を曲げ、壁を擦る。極力爪を立てないようにしながら快楽のポイントを探っていく。乳首は吸い上げながらも舌で弄り、どんどん硬くなっていくその感触を楽しんだ。美少女が自分の手でこんなにも感じている。股間のものがたまらなくいきり立つのを感じて裕也は指を引き抜くと櫻の片足を担ぎ上げた。性急過ぎるなんて考える余裕はどこにもなかった。ただ、この見事にくねる裸身が欲しくてたまらなかった。
「あ・・・あふぅ・・」
数度見当違いの場所に当ててるたびに櫻が切なげな喘ぎを漏らす。滾るそれをひんやりとした指がやんわりと握ると、熱くぬめる蜜壷に自ら導いていった。濡れた瞳が訴えた。
私を・・・奪って・・・。
雨のようにシャワーが裕也の背中を打つ。跳ねた雫が櫻の黒い髪を、白い肌を濡らしていく。どうでもよかった。もう、全てがどうでもよかった。裕也は、指に導かれるまま、滅茶苦茶に腰を突き上げ、美しくたおやかな少女を蹂躙していく。まるで獣の営みにも近いようなその行為のさなか、いとおしげな笑みを浮べた桜色の唇が男のそれを柔らかく塞いだ。
うあ・・・っ。
凄まじい快楽の波が裕也の身体を駆け抜け、先ほどを上回る量の白濁が勢いよく少女の子宮めがけて吐き出された。
「・・は・・・っは・・・」
荒ぶる呼吸の中、心地よい疲労に苛まれながら裕也は少女を見た。
愛してます・・・。
少女の唇は、確かにそう、形作られた。

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