クリムゾン レイヴ18

「く・・う・・・は・・」
闇の中、艶めく白い肌が汗を掻いたように艶やかに波打っていた。細く整った眉が撓り、苦しげに寄せられる。
「が・・はふ・・・う・・・う・・あああっ!」
しなやかな体が大きく仰け反り、悲鳴にも似た喘ぎが上がる。呼吸が荒くなり、苦しげにその首を振ると長い髪がシーツに散る。
「た・・すけ・・だれ・・か・・たす・・・れ・・ん・・・漣・・・」
丹田に瘴気が蟠り、それが四肢にまで手を伸ばして絡みつく。まるで逃げ場はない。そう言っているかのように締め付け、苛み、増殖しようと蠢く。
「あぐぅ・・・あ・・ああ・・・。」
眦から涙が滲み、滑り落ちていく。その清らかに見える雫からすら瘴気が煙の如く立ち上っていた。
それほどまでに、操に埋め込まれた瘴気は根深かった。英が命を賭して清め、遙が巫女としての力をもってして清めてなお、魂の奥底に巣食い、隙あらば増殖しようとする。操に与えられた瘴気の温床は、まるで癌の如き性質を持っていた。そしてそれは気を緩めれば容赦なく苦痛を伴って操を貪ろうと暴れまわる。
操でなければ、耐えられずにその存在そのものが消されてしまうであろうほどに。
カタ・・・ス・・・
かすかな音と共に遙が身を休ませている和室の襖が開いた。僅かに開いた隙間からするりと身を滑り込ませた人影。それは、遙であった。
「・・操さん・・・。」
胸を掻き毟り、髪を振り乱す操の傍に膝をついて座る。その額にそっと手を触れ、表情を曇らせた。
清めることはたやすくない。言司でない遙には、肉体を媒体にしても限界があった。
漣を・・呼んで来るべきかしら・・。
そうは思っても、胸に巣食う嫉妬はたやすく拭えるものではない。もし呼んで来たら。繰り広げられる行為は想像にたやすくて、遙は知らず涙を零しそうになって苦笑した。
「馬鹿ね・・。助ける方が先なのに・・。」
だけど・・。
どう考えても納得はできなかった。
今までもずっと・・そうしてきたのかしら・・。
もちろん答えは聞くまでもなくわかっていた。そう。わかっている。
「はあ・・・ううっ!!」
操のあげる唐突な喘ぎにびくりと身を震わせる。操の表情はますます険しくなり、瘴気が増しているのがわかる。後しばらくすれば、この空間が胸が悪くなるほどの瘴気に犯されるのは目に見えていた。
「遙・・?」
「え・・?」
何時の間にか、背後に漣が立っていて、二人を心配げな面持ちで見ていた。
「漣・・。」
「操・・やっぱりまだ祓えてなかったか・・。」
唇を噛み締めながら漣が遙の隣に膝をつき、操の顔を覗き込んだ。そこまでして見なくても操をずっと見てきた漣ならわかる。
言司・・すなわち、自分の清めが必要だ。
「遙・・・。」
操の顔を見ながら漣は遙に声をかけた。その顔に、決意の表情が浮かぶ。
「俺は・・自分の努めとして、これから操を清めなきゃならない。それは言司としても当然だし、今まで俺を助けてくれた操に対しても当然のことなんだ。だけど・・。」
一旦言葉を切って遙を見る。その瞳が気遣わしげに遙の瞳を見ていた。それでも、できる限り臆することなく、まっすぐと。その瞳を遙もまたまっすぐと見つめ返す。挫けそうになりながら。それでも、見なければならないと。
「遙・・。俺は、言い訳は一切したくない。『愛してる。』そう言うのはお前にだけだ。操は大事だし、かけがえのない仲間だ。それも理解して欲しい。お前が言ったとおり、二人とも、今の俺には必要なんだ。」
漣のはっきりとした言葉に少しだけ目を伏せて、遙は頷いた。
「うん・・・わかってる。『愛してる』って・・その特権だけで凄く・・嬉しい・・。」
浮かべた笑みは少し無理が見えた。だが、そこに触れるようなまねはしない。漣は素直に頭を下げた。
「ごめん・・。それから、ありがとう・・。」
頭を下げた漣に慌てて遙が手を振る。
「やだな、改まって。そんなことしないで。大丈夫だから。」
正直さがわかる。そして、真っ直ぐさが。漣は、昔からこうだった。だから好きなのだ。そして逆に、だからこそ信じられた。
「ねえ・・漣・・・。あたし・・ここにいたいんだけど・・。」
「は・・?」
面食らった漣に泣き出しそうな顔で抱きつく。
「わかってはいても・・あたし、醜くてどうしようもないの。操さんに嫉妬してる。ごめんなさい・・。どうしようもなくて・・。だから・・・だから・・ここで・・漣が操さんを清めるのを見たい・・。そうやって・・自分に言い聞かせたいの・・。お願い・・。」
自分で馬鹿だと思う。
どうして、そんな辛くなるようなことをするんだろう。
でも、顔を背けるのはもっといやな気がした。それが本当に癒しだというのならば、見て、全てを知っておきたい。知らない事を勝手に想像したり妄想したりして苦しむのも迷惑をかけるのもいやだったから。
全てを知ったほうが、何の疑念も持たずにすむ。今まで知らなかった分。これから先の全ては目をそらさずに見たい。
遙をしっかりと抱きとめて、漣が頷いた。
「わかった・・。いやになったら・・いつでも出ていいからさ・・。」
労わるようなその言葉に頷く。それでも、出ることはできないだろうと思っていた。畳に自分の足を縫いとめてでもそれは、許さないと。
「早く・・・操さんを・・。」
依然操は激しく魘されていた。遙の言葉を受けて漣が立ち上がる。
遙が一度だけ触れて、一度だけ抱かれた漣の体が、徐々に晒されていく。素裸になった漣は、操の傍に屈み込むと乱れた布団を剥がし、やはり激しく乱れた浴衣を脱がしてその白い肌を晒していく。その手馴れた様子にかすかに遙の胸が痛んだ。思わず目をそらしかけて自分を叱咤する。操の蒼白い裸身が闇の中、白く浮き上がるように晒された。
そして、その行為は始まった。

「ぁん・・漣・・れ・・ん・・・」
舌足らずな操の声と、漣が操の肌を弄る摩擦音、そして、僅かな息遣いが暗闇に支配された空間に広がる。
それは、まさに儀式であった。
いやらしくもなく、かといって義務的でもなく。温かみを帯びた漣の手が操の体を優しくなで、愛撫する。甘えるように上がる操の声に、時折落ち着けるように送る口付けも、遙と交わしたときほどの甘さはなく、ただ優しかった。
嫉妬を覚えないかと言われたらそれは正直に言って覚えないはずはなかった。だが、目の前にしたものだけが、それが「癒しの儀式」で終始するであろうことを納得することができる。そんな世界。漣が操の中に入り込んだときですら、かすかにちりちりと胸を妬く痛みよりも、行為の持つ説得力が勝っていた。第三者が口出しできない。そんな世界。
「あ・・・。」
だが、その奥で、確かに目覚めつつあるものも存在した。遙は、徐々に自分の下着が湿りつつあることを自覚していた。
やだ・・・あたしったら・・・。
それでもどうしようもなく衝動が沸き起こる。
触れたい・・触れられたい・・・愛撫したい・・されたい・・・。
後からどれだけ考えても、自分にそんな度胸があるとは思えなかった。なのに。
気がついたら、遙は操の枕もとにいた。身を起こして腰を振る漣を一瞥すると、ぼんやりと自分を見上げて何か言いかけた操の唇を塞いだのだ。
「ん・・・んぅ・・?」
「遙・・お前・・?」
操の瞳が見開かれ、漣の動きが止まった。唖然として遙の様子を見ている。
その様子を感じながらも、構わず遙は操の顔を抑え、角度を変えて深く口付ける。やがて、我に返った操の手が動き、遙のパジャマの足をゆるゆると撫でた。
チュ・・・
音を立てて二人の唇が離れる。ぼんやりと夢見ごこちな遙を見てくすりと笑うと、操は漣を見た。
「ね・・。後ろからきて。」
そのまま体をずらし、四つん這いになるとどこかぼんやりとして二人を見ている遙に口付けた。遙が操に与えたどこかぎこちなさが残る口付けとは違う濃厚なキス。
それは、遙の官能を確実に刺激し、その息を荒げていく。そんな操を後ろから漣が貫く。快楽に流されそうになりながらも操が遙の耳元で囁いた。
「脱いで・・?漣と一緒に、あたしを癒して・・。」
それは強制力を持つ言霊ではない。にもかかわらず、遙は操の言うがままに体を離し、パジャマを脱ぎ捨てた。幼さを残す若い身体が露わになる。ブラを脱ぎ捨て、ショーツを脱ぎ落とすと、その布地がべったりと濡れているのがわかった。その遙の下着を手にとると操はちろりと舐める。そして、その顔に娼婦の笑みが浮かんだ。
「漣と・・あたしを見て感じてたの?かわいい・・。来て・・。」
促されるままに操の前に座り込むと、唇が塞がれた。体を支えていない手は遙の胸へと伸ばされ、ゆっくりと揉みしだきはじめる。そうしながらも漣は動いていて、間断なく操に快楽を与え、瘴気を吐き出させていく。それは、とても不思議な光景だった。
「ん・・・んぅ・・ふ・・ちゅ・・・くちゅ・・・」
淫猥な音が二人の唇から響き、それに喘ぎ声が纏わりつく。優しく遙の胸を揉みこむ操の手はその乳房の先端を摘み、遙の身体を震わせる。唇を貪っていた唇は徐々に下がり、耳朶、首筋、そして鎖骨を辿っていく。それにしたがって手は下がり、腹から腰を擽るように撫でて蜜が溢れ返った遙の秘裂にそっと触れる。
くちゅ・・・
「や・・・。」
自分のそこが立てる音に遙が顔を紅くして俯くと、くすりと笑って操はさらに指の動きを激しくした。乳首を唇に挟むようにしながらその声が囁く。
「ねえ、足開いて。」
何故だか抗うことができなかった。ゆっくりと暴かれる濡れ切った襞を操の細く白い指が這いまわり、処女を散らしたばかりの入り口に僅かに指を潜り込ませる。すると、遙の身が僅かに震えた。
「あ・・。」
「怖い・・・?」
囁きながらあやすように胸を吸い、舐めると緩く遙が首を振る。
くちゅ・・・にゅ・・
卑猥な水音が響く中、操の指がてらてらと遙の蜜に濡れて秘唇を出入りする。それは、漣の機械的な動きに比べてなんとも蟲惑的で淫靡なものだった。やがて、固くし凝りきった乳首をきつく吸い、仰け反った遙が背中から倒れたのを機に操の唇が遙の秘裂へと移動する。
「あ・・そこは・・・。」
くったりと為すがままにされながらも一応の抵抗は示す遙のそこにかまわず口付ける。
「ぁ・・はううっ!!」
激しく仰け反る遙の足を抑えるようにしながら柔らかい襞を舌で弄り、敏感な突起を軽く唇で挟んで吸い上げる。その一方で、確実に漣の動きによって自分も追い詰められていた。
一方漣は。
目の前で繰り広げられる女性たちの痴態に目を奪われ、いつもは必要以上に勃起をしない男根がさらに大きさを増し、固くなるのを感じていた。
やべ・・・。
遙にああいった以上、この儀式でそれ以上に感じてはならない。そう思っているにもかかわらず操の手で乱れる遙の姿にどうしようもない劣情が沸き起こるのを堪えきれなかった。そしてその欲望は操への腰の動きに反映する。
漣に突き上げられ、その快楽に突き動かされるままに遙の秘裂を舐めしゃぶる操も、敏感に漣の変化を感じ取っていた。僅かな嫉妬が胸を妬く。が、それをはるかに上回って遙に対する愛しさにも似た連帯感が芽生えるのを感じていた。
この子・・あたしの手でいかせてあげたい・・。
それは遙も似たようなもので、胸を焦がす嫉妬もさることながら、操の手によって与えられる快楽に酔いしれ、それを心地好く思う自分がいた。そして、その感覚はまるで必要不可欠のものであるかのように遙に浸透していく。
固く尖る突起が。布団をぐっしょりと濡らした蜜が。触れられもしないのに尖りきった乳首や、恍惚とした忘我の表情がそれを如実に物語っていた。
「あ・・ん・あ・・あたし・・もう・・ぁ・・。」
「遙・・あたしも・・もう・・・。」
二つの裸身が悶え、喘ぎ、狂ったように快感を訴える。そして二人揃って間近にきた頂点に手を伸ばした。
「あ・・ぁあああんっ!!!」
「いっちゃう・・・っ!!」
がくがくと震え、思わず遙の秘裂から顔をあげた操を漣が数度突く。そのままがっくりと力を失い、清めを終えた操を横にそっと横たえると、やはり脱力してびくびくと震えている遙へと近寄る。
「遙・・。」
「漣・・。」
ぼんやりとした遙が気がつく暇も有らばこそ。漣は猛りきり、限界まで欲望を蓄えた剛直を遙のぬめる蜜壷に押し込んだ。
「い・・いやああんんっ!!」
唐突に訪れた衝撃に驚き、慄きながらもしっかりと遙はそれを咥えこむ。与えられる愛情と快楽を逃してなるものかと必死に漣にしがみ付いて。気だるげに起き上がった操が漣の背中に縋り、舌で背中を辿ると、漣の尻を割ってその窄まった菊座に赤い舌を這わせた。
「う・・み・・操・・。」
そこから齎される奇妙な感覚に思わず漣が呻き声をあげる。限界を間近に迎えた肉棒が、さらに大きさを増した。
「ぁん・・漣・・・漣・・だめだよぉ・・。あたしもう・・・。」
遙がいやいやと首を振りながら漣に限界を訴える。もとより、漣ももう長くは持たなかった。
「遙・・・。」
「漣・・漣・・あ・・・ああああっ!!!」
「く・・っ」
絶頂に達して大きく仰け反った遙の胎内にきつい締め付けを受けた男根がその欲望を大量に吐き出す。
そのまま、漣は遙の上に折り重なるようにして倒れ、遙の唇にそっと口付けると横に仰向けに寝転がった。
その漣の汚れた肉棒を操が擦りより、綺麗に舐めとっていく。
自分でいかないことはわかっていた。だけど、今日はいくための一端は担えたような気がする。だから、不思議に満足だった。
漣の男根を清め終え、身を起こした操と遙の視線が絡み合う。
しばらく身動きもせずに絡み合う視線を漣はまんじりともせずに見つめていた。
やがて。
「くす・・・。」
「ふ・・ふふ・・はは・・。」
二人は弾かれたように笑い出した。
操が漣の腰に抱きつき、遙が漣の首に抱きつく。二人は同時に言った。
『漣はあたしたちのもの。それでいいわよね。』
裏表ないその声の明るさに、今度こそ漣はほっと心底息をついたのだった。

闇の中。幾つもの影が蠢いていた。
その影を見ながら男は唇に薄い笑みを浮べる。
「余り後があるとは言えない状況なんだよ。だから、今日から遠慮せずにやって欲しいんだ。」
  食いまくっていいので・・?
  犯しまくっていいので・・?
  騙しまくっていいので・・?
口々に上がる疑問に男は鷹揚に頷いた。
「いいよ、かまわない。あっちも泰山のじいさんがいないしね。そう怖いものはないはずだしさ。思いっきりやってよ。」
嘘だ。それは正しい情報ではない。だが、今の刹に関係はない。
要は勢力が一つに集まるのを防げればいいのだ。
葉山の孫に葉霊、そしてなりたての巫女。
これだけなら自分だけでなんとでもなる。
だが、腑抜けの斎は当てにできないかもしれない。
まあ、どちらでも構うもんか。
「次が・・最終決戦だからね・・。」
部屋の隅の一際濃い瘴気に向かって一瞥をくれる。
腑抜けじゃ困るんだよ。女の一人くらい自分で奪ってもらわないとね。
そこまで面倒は見ていられない。
ゆっくりと座っていた場所から刹は立ち上がった。
「じゃあ、よろしく頼むよ。」
妖艶ともいえる笑みを残して。
男は、闇に溶けるように姿を消した。

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