れっといっとびぃ6

「こ・・れは・・。」
そこは、淫靡で、妖しくも異様な雰囲気をかもし出していた。
巨大な長方形の部屋に巨大な円柱の柱が両脇に数本立っている。部屋のいたるところに松明。そして、祭壇と思しき一番奥には巨大なかがり火が焚いてあった。
その、揺れる明かりの中に照らされてその光景はあった。
「あん・・んぁ・・いやぁ・・ん・・・」
「う・・ぐるう・・・・ぶもぅ・・」
「あぁ・・・お願い・・許して・・・」
部屋の中央に座すのは雄々しき角を持った雄牛の頭を持つ精悍な巨躯の男。あたしも始めて見るが一目見ただけでその正体はわかった。ミノタウロスだ。
あぐらをかいたまま剥き出しになった猛々しい男根で四つんばいの華奢な少女を引き裂き、右手で他の少女の胸を揉みしだき、左手でまた他の少女の秘裂をいじっている。男が見たらさぞかし羨ましいハーレム状態だろう。
ぐちゅ・・ぐちゅ・・・
危機的状況に陥っても女は濡れる。女の子のあそこを引き裂かんばかりに出入りするミノタウロスの凶器はぬらぬらと愛液に濡れそぼっていた。その長大なペニスは全てが納まりきれていない。恐らく、半分も入ってはいないのではなかろうか。そしてその凶器を女の子もきつく食い締めているのがここからでもわかる。
「や・・だ・・やだぁ・・・。」
股間をいじられている子のあそこからも淫猥な音が聞こえてくる。見てはいけないと思いつつも視線を向けると女の子の割れ目をぬちょぬちょと濡れた太い指が出入りを繰り返している。
もう一人の女の子も、豊満な胸を指でこねまわされるようにしながら喘いでいた。
「いや・・もぉやだぁ・・・。」
そういいながらも縛られた手は自分の股間を弄っている。異様な雰囲気に呑まれてしまったのかもしれない。確かに、この状態が続けばまともじゃいられないだろう。
広い部屋は、熱気と獣くささと淫靡な香りに満ちていた。
・・・やば。
この明らかに異常な光景にあたしは体の奥が疼くのを感じてしまったのだ。集中が解けたら姿がもろばれになってしまう。あたしは慌てて気を引き締めなおした。
涙ながらに訴える少女たちも怪物の怪力と恐怖のためにかその手をよけることもかなわないらしい。両手は前で縛められていて、その手には縄がついており、すぐそばの杭に全て結び付けられていた。
まあ・・普通はそこから抜け出す術なんて知らないか。
ミノタウロスの手の届く範囲でつながれたまま、少女たちは陵辱されつづけているようである。恐らく、ミノタウロスが飽きるまで。
妙に冷静な面持ちでそれらを観察しながらあたしは部屋の中を注意深く見た。
奥には一つ扉がある。これは地図によればもう一つに部屋につながる廊下につながっているはずだ。作戦としてはあのミノタウロスの気をひきつけている間に牢屋の女の子たちを逃がして、それから直接対決・・ということになるだろう。
今の状況を見ればミノタウロスを助けるのは難しい。というよりも生かしておくかこのやろう、という感じである。種の保存のためであればハーレムをつくる必要はどこにもないだろうし。
半年もこの状態なのならお腹が大きい女の子もいるんじゃないのかなあ。
あまり好ましくない想像をしてあたしは頭を振った。仕方ない。時は戻せないのだから。
「ああ・・ああっいやあっ!」
女の子の声に視線を戻すと、ミノタウロスが割れ目をいじっていた女の子を引き寄せ、仰向けになって下から串刺しにするところだった。
「あ・・あぐぅ・・む・・・。」
長大な男根に刺されて女の子は口をパクパクさせながら喘いでいる。足を踏ん張り、半ばまで突き刺さったそれがそれ以上奥に行かないようにはしているが、それがやっとのようである。怪物がいたずらに腰を突き上げると「ひいっ」と喉に引っかかった悲鳴を漏らして蒼白な顔で耐えているのが見えた。
そうしておいて今まで後ろから貫いていた女の子を股間に押しやり、膣に入りきらない根元の部分に頭を押し付ける。
「いや・・いやだ・・・、やめて・・。」
啜り泣きながらも女の子は押し付けられるままにそれを舌で奉仕させられる。そして、胸を揉んでいた女の子を抱えると自分の顔の上に跨らせた。
「いやぁっ!!やだ!!やだぁ!!」
ずりゅっ・・ずちゅ・・ずるずる・・・
嫌がる女の子の腰を押さえつけ長く広い舌でべろべろと女の子の股間を舐めあげていく。時に膣にその長い舌を押し込み、中をかき混ぜるように舐めまわしているのが良くわかった。そのたびに女の子はすすり泣くように喘ぐ。
「・・・・。」
あたしは部屋の様子をしっかり頭に叩き込むと、そっとその扉を閉めた。
牢屋を抜け、再び廊下に出る。出口への道をスルーして、さっき入らなかった大部屋へと急いだ。
あたしがさっきこの部屋に入らなかったのにはわけがある。
あまりこの部屋への廊下を歩いた形跡がないということは、この部屋は使われていないということだ。まあ、牢屋とやるための部屋があっちにあるのなら確かにその必要はないかもしれないが、化け物がそこにいて使ってない部屋があるときは考えなくてはならないことがある。
一つは、解除できない罠があること。
もう一つは、その部屋に近寄れない何らかの理由があるということ。
ミノタウロスが行為に没頭しているのなら、この部屋を調べる時間も多少はあるということだ。あたしは、注意深く大部屋の扉を開けた。
見事に何もない部屋だ。真四角の天井も高くやたら広い部屋。入る前にあたしはまず天井や入り口を調べた。シェリーがここにも入ったのであれば罠の存在はないと考えてもいいかもしれない。だけど、用心を重ねるに越したことはない。続いて床を調べる。石畳の床は頑丈そうで、水が染み出している気配もない。無論、天井からもだ。
あたしはここまで確認してようやく部屋の中に入った。部屋の向かい側に大きな扉がある。これは恐らく、ミノタウロスが交尾をしている部屋へと続く廊下につながる。あたしは注意深くその扉を調べた。
「・・・向こうから・・開けた様子がない・・・。」
罠がある様子はなく、鍵がかかっている様子もない。向こう側に錠前があれば別だが。ためしに軽く押してみる。扉は、わずかに軋みを上げて隙間を作った。すぐにそれをもとにどすとあたしは今度は四方の壁をくまなく調べる。
ふと、その手がある一点で止まった。よくよく見なければわからない。あたしでも見過ごしてしまいそうな石の出っ張り。それを押すと壁の一角が大きく口を開けた。
「これは・・・隠し扉・・。」
中は据えたような匂いに満ちていた。そう、さっきかいだミノタウロスの匂いをより濃厚にしたような。
かなり広いその部屋の奥にはいくつかの宝箱。そして・・。
「・・・ん?」
あたしの目にとあるものが映る。それを手に取ったあたしは感じていた疑問が確信に変わるのを感じた。あたしの考えが正しければ・・・・。

「どうだった?」
出てきたあたしをどこかほっとしたように見るレオにあたしは中でのことを報告した。
「酷いものね。ハーレム状態よ。今もやりまくってるわ。」
宿に戻る道すがら、あたしの口調にどこか荒いものを感じたのかレオがあたしの手首を掴んだ。
「何?」
「・・・なんつーか。今から行くか?」
無論。レオと二人なら、今から行ったって彼女たちを救い出せるかもしれない。だけど。
「明日にしましょ。そのほうがいいわ。」
そういったあたしにレオは頷いただけだった。
「そうか。」
そう。シェリーがいなくては行けないのだ。彼女でなければ。
宿に戻って、明日に備えようとベッドに入ったけど、あたしは眠れなかった。
さっき見た光景がちらついて。
アサシンをしていてもあんな大きな化け物を見るのは実は初めてだ。遺跡調査も実際は数えるほどしかやったことがない。
今までの命のやり取りとは異質な恐怖が頭の一部を占めていた。その頭を前に聞いた噂が掠める。
売られた先が暗黒神殿で、化け物の相手をさせられることもあるという噂。あたしも、一歩間違えばそういうことになってたかもしれないわけで。
あったかもしれない自分の姿が少し重なってしまったのだ。
もちろん、あの異常な痴態に少し感じてしまったこともあるんだけど。
「・・・・。」
何度目かの寝返りを打ったとき、隣のベッドから起き上がる気配がした。そして、後ろから温かい腕が伸びてくる。
「眠れないか?」
「レオ・・・。」
頬に触れた手にそっと瞳を閉じる。つい口元が綻んだのは後ろには見えないはずで。
「大丈夫。すぐ寝るわ。」
「添い寝してやろうか?」
冗談めかした言葉にくすりと笑ってあたしは体の向きを変えた。窓からの月明かりにレオのアッシュブロンドの髪が銀に染まって見える。
「添い寝、したいんでしょ?」
「まあな。」
わざとらしくスケベったらしい笑みを浮かべるもののその目は限りなく優しかった。
「しょうがない。添い寝してあげるわ。」
「これはこれはありがたき幸せ。」
おどけた口調のレオをベッドに招き入れると大きな手があたしの体を優しく弄る。何回体を重ねただろう。どうやらレオとこうするのはあたしは好きらしい。
「ぁん・・・あ・・。」
レオの唇があたしの首筋をたどり、そうしながら手は胸を柔らかく揉んでいく。優しく、強く、乳首をつままれると腰まで震えが走る。
「レオ・・ぁん・・いい・・・。」
鎖骨をたどり、あたしの胸をぺろぺろと舐めながらレオの手がすでにぬるんだあたしの割れ目にもぐりこむ。
「なんだ、もうぬるぬるじゃん。」
「んぁ・・は・・・だって・・気持ちいいんだもん・・。」
「まだなんもしてねーぜ?」
意地悪な声が笑みを含んで耳元に囁きかける。
「やぁ・・。」
だってしょうがない。耳にかかる吐息すら気持ちいいと思っちゃうのだから。
くちゅ・・ちゅ・・・・
レオがあたしの胸を舐めている音と、指があたしの濡れた股間を弄る音が交じり合って耳に届く。それが余計に感じてあたしは唇をかんだ。
「い・・あ・・・あん・・はぅ・・ああんっ」
クリトリスを優しくつままれて擦りあわされる。思わずのけぞるあたしの唇を優しくふさぐと、その長い舌があたしの口の中を遠慮会釈なく蹂躙していく。舌を絡ませ、唾液を音を立てて啜り、唇を柔らかく噛んでいく。
「ふぁ・・あ・・・。」
口付けに翻弄されながら押し開かれた足の間に、レオの熱い塊が当たるのがわかった。わざと、じらすように入り口付近に擦り付けてくる。
「あん・・ねえ・・頂戴・・・お願い・・。」
甘い声でおねだりしてみるけど、今日はいつになく意地悪でニヤニヤしながら擦りつけるだけだ。
「やぁ・・お願い・・レオの・・レオのほしいのぉ・・・。」
狂おしいほどの渇望に犯されながらあたしはレオの胸に縋りつき、ペニスを指に握り締める。自分の指で導こうとするのに体をずらして入れさせてくれない。
「ぁん・・・なんでぇ・・?」
半ば泣きそうになりながらしがみつくあたしの耳にレオの低い声が響いた。
「どこに、何が欲しいのかちゃんと言えよ。そしたらやる。」
もう、恥も外聞もない。あたしはきつくレオにしがみついた。
「あたしのおまんこに・・・レオのおちんちん入れてぇ・・・。お願い・・・。」
「いいぜ、お姫様。」
にやりと笑うと、レオの腰が動いた。
ずちゅ・・ずりゅりゅっ!
「あ・・・ああああんっ!」
それが子宮の入り口をノックした瞬間。あたしはレオの背中に爪を立て、そのまま最初の絶頂に意識をさらわれたのだった。

翌日、お昼きっかりにシェリーはあたしたちの宿を訪れた。緊張のせいか、やや青ざめた顔をしている。
「よろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくね。」
軽く挨拶をすると、あたしはかけていた椅子から腰を上げた。
「じゃ、行きましょうか。」
そのあたしを驚いたようにシェリーが見る。
「え・・あの・・打ち合わせとかは・・・。」
「するわよ?現地でね。」
レオには昨日、あらかたのことは話してある。だからレオは黙ってあたしの傍に立っていた。
「はあ・・・。わかりました・・。」
あっけらかんと言うあたしになんとなく腑に落ちないような顔をしながらもシェリーは頷いた。
「じゃあ、行きましょう。」
あたしたちは昨日下見をしていたし、シェリーは昔通っていたこともあって遺跡まではなんということもなく到着した。あたしは迷うことなく先頭に立って中に入り、奥へと進んでいく。そして、突き当りで左へと曲がった。ついでにちらりとシェリーの顔を見てみる。
「大丈夫?」
「あ、はい。」
なんとなく落ち着かない表情のシェリーは慌てて返事をした。そのシェリーに軽く頷いて、あたしは大広間へと続く大きな石の扉を開けた。
中には案の定、誰もいなければ何もない。シェリーとレオを通し、扉を閉めるとあたしは扉の前で振り返った。
「ここ、懐かしいでしょう?」
あたしの問いに一瞬きょとんとしたシェリーが慌てて頷いた。
「え、ええ。すごく。前はよく遊びにきてましたから。」
「何で来なくなったんだっけ?」
シェリーに話し掛けながらあたしは壁伝いに歩いていく。昨日見つけた、あれに向かって。
「え・・ええ・・・村のこととか・・おばさんの家のお手伝いが忙しくなって・・。」
「ふーん・・・・・まあ、言い訳としては普通ね。でも、嘘としては三流だわ。」
「え・・?」
今朝、あたしは朝早く起きてシェリーの話の裏を取りに村を回った。確かにもとから手伝いはよくしていたようだったが、半年前から急に忙しく動き回るようになったらしい。自分の仕事でなくても率先してやるようになったとか。特別店が忙しいわけでもないのに。
「あのミノタウロス、解放したのはシェリーさんじゃないの?」
「な・・なんで・・そんなことを・・。」
見る間にシェリーさんの顔色が変わる。昨日の下調べと、村での調査。あたしはそれである推理を導き出していた。あくまで推理なんだが。
「半年前って事はないと思うわ。恐らくもっと前にあなたは誤ってここに封印されていたミノタウロスを解放してしまった。長い間封印されていたんだから恐らく相手はお腹をすかせてあなたを食べようとしたはず。ところが、あなたは何の偶然かそのとき食料を持っていた。以来、ここに来てはミノタウロスに食料を与えていた・・。」
「な・・何の根拠があってそんなこと・・。」
うろたえるシェリーさんにあたしは白い布切れを差し出した。
「これ。見覚えない?」
白い布切れを広げるとそれは大判のテーブルクロス。そこにはパン屑らしきものもくっついていた。そして、隅っこに『シェリー』と縫い取りがある。
「これは・・私の・・・。」
「これね、ここにあったのよ。」
そういいながらあたしは隠し扉を開けた。開かれていく大きな空間にレオが「へえ・・・」と感嘆の声を漏らす。
「ここを・・・見つけてしまったんですね・・・。」
沈んだ口調で言う彼女は、青ざめた顔をしていたものの、唇をきつく引き結び、覚悟を決めた表情をしていた。
「ねえ、教えて。どうしてすぐに村の人に言わなかったの?そして、どうして半年前からここに来なくなったの?」
あたしが静かに尋ねると。シェリーはその場にへたりと座り込むと、ぽつりぽつりと話し始めた。
「私があの怪物を見つけたのは・・1年くらい前でした。ほんの偶然で・・。最初はすごく怖かったけど・・ご飯を食べさせてるうちになんとなく愛情が湧いちゃって・・。半年くらいは・・何事もなくここに来てはご飯を上げてたんです。害がないようだし・・秘密のお友達・・くらいのつもりで・・。」
「ところが、半年前に事情が変わったのね?」
あたしの問いかけにシェリーはこっくりと頷いた。そして、さめざめと泣き始める。
「びっくりしたんです・・。急に・・・急に、あんなことするなんて・・。」
「あんなこと・・?」
レオの問いかけに今度は激しく嗚咽を漏らし始める。よほどショッキングなことがあったのか、なかなか次の言葉が出てこない。
「ね、教えて?一体何があったの?」
傍に座って髪を撫でながら優しく問い掛けると、泣きじゃくりながらやっとのことでシェリーが口を開いた。
「急に・・私の服を脱がせて・・その・・・。」
「ああ・・なるほど・・いたされちゃったわけだな。」
レオの実もふたもない言い方に真っ赤になって小さく頷く。
まあ確かに・・いきなりあんなのに襲われたらショックだろうな・・。
「なるほどね。それでここに来なくなった途端、あのミノタウロスが今度は村を襲うようになったと・・こういうわけね?」
酷くしゃくりあげながら頷くシェリーの背中を撫でてからあたしは立ち上がった。
「とにかく・・。村の女の子たちはここで酷い目にあってるわ。まさにあなたがされたようなことを毎日されている。申し訳ないけど、手加減はできないと思うの。いいかしら?」
あたしの言葉に一瞬シェリーの顔がこわばった。その表情が心の内の葛藤を物語っている。まだ、無害だったころのミノタウロスの影が頷くことを邪魔しているのだろう。
「あたしたちは依頼されたとおりの仕事をやるだけ。レオ、昨日の打ち合わせどおり、まずは女の子たちがいる牢屋のドアを開けてからこっちから向こうへ行ってミノタウロスの気をひきつけて。あたしたちはその間に村の女の子を逃がすわ。シェリーさんに女の子たちを逃がしてもらったらその後加勢するから。」
あたしの指示にレオはにやりと笑って親指を立てる。
「まあ、お前さんが来ても残ってないかもなあ。」
「その意気で頑張って。じゃあ、ちょっとここで待っててね。」
あたしは二人をその場に残すと、昨日はわずかに開けただけだった扉を細く開けた。ミノタウロスがいるはずの部屋に通じるドアだ。念には念を。あたしはドアを開け、廊下に罠がないかどうかを調べ上げ、扉の罠の有無、鍵の有無を確認してから戻った。
あたしが部屋に入るのと、涙をぬぐったシェリーが立ち上がるのは同時だった。
「じゃ、行きましょうか。」
あたしの言葉に、レオとシェリーが頷いた。

牢屋の前の扉で、あたしはまず聞き耳をした。気配はない。
あたしは扉の前でレオとシェリーに目配せをすると、重い扉をゆっくりと開けた。
中は相変わらずすすり泣きに満ちている。
レオがするりと中に入ると、格子がついたドアの前に立った。
「サイレンス!」
あたしの力ある言葉に答えて周りから音が消える。そして、レオが剣を振るった。
・・・・・!
・・・・!
重い扉が見事に割れて外へと倒れる。そこまで計算された切り口は見事なものだった。そこまでして、レオは真反対の部屋へと走る。
中には薄汚れて涙に暮れていた女の子たちが唖然とした顔であたしたちを見ていた。あたしとシェリーは身振りと手振りで逃げるように伝える。
万が一ミノタウロスがこちらに気づかないとも限らない。あたしがドアを警戒している間にシェリーが女の子たちを遺跡の外へと逃がして行った。幸い、お腹が目立っているような子はおらず、あたしはほっとひそかに息をついた。
牢屋にいる女の子は4人。ということは昨日のことを考え合わせると、現在2人の女の子がミノタウロスの相手をしている計算になる。
あたしは緊張の面持ちで隣の部屋へのドアに身を寄せ、聞き耳をした。そのとき。
がこっ
「・・しまった!」
慌てて後ずさるが、身を隠すには間に合わない。あたしはドアを開けたミノタウロスと真正面から対峙してしまったのだ。ミノタウロスの背後にロープでつながれた女の子がいる。
「女の子を交換に来たというわけね・・?」
シミターに手を伸ばすが、これは恐らく役には立たない。救いは今いるところが狭いこと。ミノタウロスの大きな斧や大きな体は、狭いところでの戦闘には向かない。と思ったのだが・・。
「うそおおっ!?」
ぼこぉっ!!がらがらがら・・・
がこぉ!!
壊された牢屋のドアにミノタウロスは獲物が逃げたことを悟ったのか、勢いに任せて斧で壁を殴りつけた。ミノタウロスの怪力で牢屋の壁は壊され・・・つまり、かなり広い空間が出来上がったことになる。
力任せに振り回される斧を後ろに跳び下がってよけ、落ちてくる瓦礫を避けながら相手の様子をうかがう。
レオが来れば・・・。
「ぶもぉおおおおっ!!ぶもぉおおおおおおおおっ!!」
ミノタウロスが牛そのものの咆哮を上げたとき、その背後のレオの姿が見えた。
「レオ!!女の子たちをお願い!!」
「任せろ!!」
状況からあたしの意図を察してレオが走り出す。ミノタウロスがとっさに振り返るが間に合わない。あっという間に女の子たちのロープを断ち切ったレオは女の子たちを後ろに庇い、叫んだ。
「向こうの扉から逃げろ!!早く!!」
凍りついたようにとっさには動けない女の子たちの逃げ道いを確保すべくレオはその場から動けない。そのレオを真上からミノタウロスの斧が襲う。
ぎぃいいんっ!!
まともに受けたのではいかにレオのバスタードソードが頑丈だと言えども折られてしまう。だが、レオはその斧を流すように受けて横に飛び、ようやく走り出した女の子たちを背にしてじりじりと後退する。
「この・・馬鹿力め・・。」
あたしもぼやっとしてはいられない。廊下を飛び出し、戻ってきたシェリーにあたしたちが最初に入った部屋の方に中に残っていた女の子達が逃げたことを伝え、あたし自身はそのまままた牢屋のほうに戻る。
すでに戦いの場は祭壇がある部屋に移っていた。
きぃいん!がきっ!ぎぃいいいいん!
レオはスピードとテクニックでははるかにミノタウロスに勝ったが、その膂力の凄まじさに苦しめられているようだった。隙を見ての攻撃は確実に当たるものの徐々に追い詰められていく。
こういうときに直接的な魔法を使っても巻き込む恐れがある。なら・・。
「ボム!」
あたしはミノタウロスの背後の床に呪文を放った。
ズムッ!!
「ぶもぉおおおおっ!!」
「ラリサ!」
腹に響く爆音が部屋を震わせ、石床がこなごなに砕け散って黒々とした地面が顔を覗かせた。
唐突に響いた爆音にミノタウロスの注意があたしにそれる。魔法使いに捕らえられていたのなら魔法の恐ろしさは身に染みてわかっているだろう。その巨躯があたしのほうに向いた。だが、あたしが狙っていたのはそれじゃない。大またで近づくミノタウロスにも構わずあたしは大地にだんと手をついた。
「大地よ!かの者に縛めの手を!!!ホールディングハンド!」
あたしの言葉に大地がうねり、まるで触手のように盛り上がりを見せる。そのまましゅるしゅると伸びていくと見事牛頭を縛めた。
「レオ!今よ!!」
「おう!!」
あたしの声に反応してレオが走り出す。そして、バスタードソードを振りかぶったそのとき。
「待って!!」
叫びと共にレオの前に走りこみ、立ちはだかる人影があった。
「シェリー!!」
「どけ!!シェリー!!」
あたし達の叫びにもシェリーは動かない。
「お願い、もーちゃんを殺さないで!」
も・・・もーちゃん・・・・・・。
一瞬凍りつきそうになった意識を引き戻してあたしはシェリーの説得にかかろうと一歩踏み出した。
「じゃあ、生かしてどうする気?」
「・・・私が面倒見ます。」
「村人達に存在もしれてると言うのに?内緒でなんて無理だわ?それにあなたのことを覚えてるかどうかすらわからないのよ?」
「私、ここでもーちゃんと二人で生活します!もーちゃんが私を忘れるはずがない!」
シェリーは頑として動こうとはしない。そして、あたしの耳はいやな音を捉えた。
みし・・みしみしみしみし・・・・・
大地の縛めが怪力の前に千切られようとしているのだ。急がねばならない。
「じゃあ、この化け物に一生抱かれつづけるというの!?」
「・・・それは・・・・・。」
そう。ミノタウロスは人間の女と交わることで繁殖するのだ。いっしょにいるというならそれは避けられない。
「シェリー、どいて。中途半端な同情は誰のためにもならない!」
「だけど・・・。」
ブチ・・ッブチブチィッ!!
間に合わなかった!
「ぶもぉおおお!!!」
大地の縛めを引きちぎったミノタウロスは大斧を振るい、あろうことか己を庇ったシェリーに向かって振り下ろしたのだ。
「あぶねえ!」
ザシュ!!
飛び出してシェリーを抱えたレオの背中を斧が掠める。
「レオ!!」
「心配いらん!かすり傷だ!!・・くっ。」
かすり傷だといってもあの斧の大きさだ。見る間にレオの足元に血溜りができる。
「わ・・・私・・私・・・。」
「サンダーアロー!!」
ヒュッバチバチバチィッ!!
「ぶもぉおおおおおっ!」
あたしの術にしびれて悶絶するが、どうせすぐに復活するに決まっている。あたしはその間にシェリーに駆け寄るとパンとその頬を張った。
「あたし達には生きるか死ぬかしかないのよ!そんな甘ったれたこと聞いてらんないわ!わかったら出てって!」
あたしの剣幕に押されて頬を押さえながらシェリーはよろよろと出口に向かう。あたしはすぐさまミノタウロスのほうを見た。するとちょうど、その巨体がよろよろと立ち上がろうとしているところだった。
「レオ、まだ動ける?」
「ったり前だろうが。」
息は荒いもののその声には張りがある。あたしはレオのほうを見ずに叫んだ。
「行くわよ!大地よ!再び縛めの手を!!!ホールディングハンド!!」
石床の裂け目から大地の縛めが伸びていく。振り払おうとする斧がそれを切り裂き、解こうとするがあたしは精神力の限り縛めの手を伸ばしつづけた。
額に汗が浮かぶ。
「くそ・・・っからまれっ!」
あたしの意思の勝利。一本がミノタウロスの腕を捕らえたのを機にどんどん他の触手も絡みついていく。
「レオォ!!」
「任せろぉ!!」
あたしの叫びに答えてレオが吼える。
一足飛ばしにミノタウロスに駆け寄ると、バスタードを叩きおろすように袈裟懸けに切り、返す刀で胴を殴る。
ぼき・・・っ・・・ぐちゃっ・・・
いやな音が響き、ミノタウロスの体から赤黒い血が噴出す。力を失ったミノタウロスが膝をつくと同時にレオがまたも剣を振るった。
ザクッ!ボト・・ゴロゴロゴロ・・・・・・
レオが跳ねた頭は石の床に落ち、転がっていく。その先には、へたり込んだシェリーがいた。
「あ・・ああ・・・もーちゃん・・もーちゃん・・・・。」
這うように血にまみれた牛の頭に近寄りながら泣きじゃくる彼女を、あたし達は、なんともやりきれなくもどこか冷めた風に見ていたのだった。

「本当にありがとうございました。」
頭を下げる村の人たちに見送られながらあたし達は村の出口に立った。
「いえ。解決して何よりです。」
結局。シェリーのことは伏せたままにしていた。シェリーはあれから、心をどこかに置き忘れたようにボーっとしているらしい。
まさか・・ミノタウロスのことが好きだったんかな・・。まさかね。
ミノタウロスが封印されていた場所にあった宝箱には危険極まりない罠が仕掛けてあった。どうにか中を開けたところ、かなりの財宝が中に眠っていた。とは言え、平和な村人には役に立たないものも結構あって、そういったものはあたしがもらったりもしたのだが。
・・・もちろん。かなり危ないものもあるんだけどね。そういうのはこれから行く大きな町の魔術師ギルドにでも処分をしてもらうことにして。
「気をつけてくださいね。」
「みんなもね。」
「じゃ、そのうち縁があったらまたな。」
改めて荷物を背負うと、あたしは再び村に視線を向けた。
「あ・・・。」
思わず出たあたしの声にレオがあたしの視線の先を追う。
「お・・。」
そこには、木陰に隠れるようにシェリーがいた。あたし達が見たのに気づくと、深々と頭を下げる。
『ごめんなさい。ありがとう。』
その唇はそう言っていた。
ま・・結果オーライ・・かな。
「じゃ、行きましょうか。」
「そうだな。」
あたしは相棒を見上げると、村人達に手を振って村を後にした。
世の中、いいことばっかじゃない。
納得いかないこともたくさん。
だけど、そういうのもいいんじゃない?
「なーんか、勉強になるよねー。」
「なんだそりゃ?」

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